第2話

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 書類整理が終了した。1時間程経過している。息抜きのつもりでロビーへ移動する事にした。
 ロビーへ下りて行って最初に出会ったのはレリアとクラウディアだった。彼女等は自分を見つけると「丁度良かった」と手招きしてきたので素直に指示に従う。

「あ、エディスさん。今ちょっと話をしていたんですけどね」

 そこでレリアは辺りを伺うようにそれとなく視線を巡らせる。その慎重な様子からして人形の話なのだろう。一通り警戒を終えた彼女は話を続ける。

「そのですね、そろそろ一度そのボディを大規模メンテナンスしたいってお師匠が言っていまして・・・」
「レリア様が仰るお師匠様とはクレイグ様――わたくしのお父様に当たる人物でございます。ご主人様のお身体の設計をなさったのもお父様ですね」
「そうなんですよ。それで、私も定期メンテは出来るんですけどやっぱり稼働させたばかりだし、お師匠がどうしても一度手入れをしたいと・・・。重大な欠損がないとも限らないし、機械の国まで来てくれませんか?エディスさん」

 そうなら断る理由は無い。ただし、こちらから出向く以上日取りはこちらで決めさせて貰いたいものだ。何せ、機械の国と言ったら結構離れている上最近は任務依頼が来ていない。そろそろ一件二件寄越してきそうな気もする。

「あ!師匠は前もって言ってくれればその日は空けておくそうなので。いつでもどうぞ。ただ、月が変わらないうちがいいと思いますよぅ」
「いつがよろしいでしょうか。お父様にお伝え致します」

 ――いつがいいか、か。明後日出発し、1週間かけて往復するのが理想だが。一応王国の上にも掛け合ってから決めた方が良いだろう。

「保留ですね。了解致しました。その旨、伝えておきます」

 クラウディアが優雅な所作で一礼するとそのまま滑らかな動きで姿を消した。残ったレリアにクレイグという人物の事を聞いてみる。自分がこの人形の身体を手に入れた時でさえその顔を見ていない。出不精なのだろうか。

「師匠ですか?そうですね・・・意外とアクティブなお方だと思いますよ。ただまあ、あれで国家機密の塊みたいな人ですから。外にはなかなか出られないんじゃないですか?私も王国へは派遣と修行目的で送り込まれましたし――んん?」

 ペラペラと師匠について一通り語ったレリアが玄関の方へ顔を向ける。重いノックの音がしたのと、俄にそちらの方が騒がしくなったのは当然自分も気付いていた。客だろうか、こんな辺境の別荘に。
 レリアを残し、玄関へ。彼女が着いて来たところで夜盗の類なら話にならないので連れて行かなかった。
 最初に見えたのは見覚えのあり過ぎるアルハルトの背中だった。やって来た人物と会話しているらしい。

「だぁから!いいから、お前んトコの大将出せってんだ!こっちは急ぎだし、上からも依頼申請書出してもらってんだよ!」
「それは俺に言われてもどうしようもないな」
「だから、いいから指揮官殿を呼んでくれって!!」
「仕事中だ」
「こっちが優先だろ!?割と生命の危機なんだって!!」

 妙齢の男の声。こちらもまた聞き覚えのある声だし、聞こえて来る頭の可笑しくなりそうな会話に頭を抱える。知り合いだと思われたくない程度には不毛且つ無意味なやり取りだ。