第2話

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 レリアがいつまで経っても顔を出せないので、結局クラウディアは何をしにきたのか問い掛けたところ、淡々と答えを寄越された。

「わたくしのご主人様はエディス様だと認識しております。レリア様はわたくしのお父様の弟子であられるので、不躾ながらお名前を呼ばせて頂いております。主な役目は貴方様の体調管理、そして給仕です」

 それはつまり、唐突に現れた侍女型アンドロイドは自分の給仕をし、もっと簡単に形容するなら家政婦のようなものと思えば良いのか。クラウディアが一つ頷く。その優美な動作が主人である自分の振るまいと見合っていなくて冷や汗が流れた。

「家政婦とは少し違うと思いますが、宜しくお願い致します」

 ――こちらこそ、と答え書類整理は出来るか尋ねる。残念ながらレリアは少しばかり紙類を触るのが苦手なようだった。こんなもの、パソコンで打ち込めばすぐなのに、と原始的な処置が出来ない。
 クラウディアはやはり一つ頷いた。

「お任せ下さい。その為にわたくしはここにいるのです」

 あっ、滅茶苦茶頼りになる。おかしいな、人工知能にそう言われているだけなのに凄く温かな気分にされる。レリアを除く殺伐トリオのせいかもしれない。私は今圧倒的なぬくもりに飢えている。
 そんな彼女はふと明後日の方角を見ると恭しく頭を下げた。

「レリア様からお呼びが掛かりました。何かあればすぐにお申し付け下さい。それでは、失礼します」

 クラウディアが踵を返し執務室から出て行った。
 彼女も去った事だし、と王国から届けられた書類に目を落とす。1枚目のプリントには『新規入隊希望リスト』と銘打たれている。つまり新しい人材を仕入れる手伝いをしてくれる、という事なのだろう。
 ――まあ、残念ながらそのほとんどは却下だろうが。
 デクスターは例外として、その他はある程度の実力を把握している。血気盛んな彼等の中に混ざっても仕事が出来る人間を選択しなければならない。しかし、それは紙面だけでは推し量れないものだ。故に、この名前をリストアップしてくれた人物には申し訳無いが、これが活用される事はほとんど無いだろう。
 コンコン、ドアをノックする音。特に確認もせず外の人物に入って良いと声を掛けた。たぶん、レリアかクラウディアだろう。

「邪魔するぞ。・・・仕事中だったのか?」

 が、入って来たのはジルヴィアだった。何やら機嫌の悪そうな顔をしているが、またあの戦闘狂共が何かやらかしたのだろうか。
 しかし彼女が口にしたのはまったく別の話だった。

「次の任務はいつだ?・・・何、まだ未定だと?」

 意味は分からないが聞かれた事に答えれば彼女は少しばかり憂鬱そうにその容を伏せた。明らかに不満顔であるが、任務の有無は自分に言われたってどうしようもないので我慢して欲しい。

「まあいい・・・。いいか、次の任務もあたしを連れて行け。戦果を・・・何?時と場合に寄る?煮え切らないな、お前」

 溜息を吐いたジルヴィアは来た時と同様、やはり脈絡の無い話を振った挙げ句にそのままさっさと部屋から出て行ってしまった。彼女はいったい何がしたかったのか。