第1話

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 先程自分一人だけが遅れていたのだが、それに気付いてからずっとジルヴィアが隣に並んでいる。照れるだろうから言わないけれど、彼女はなかなかに面倒見が良い。ここに来るまではどんな生活を送っていたのだろうか。

「そういえば、」

 声を掛けてみよう。そう決心した途端彼女は口を開いた。目は逸らされている。彼女もまた言葉を発するのにそれなりの緊張と勇気を有したようだ。しかしこれは好機。黙ってジルヴィアの言葉を待つ。

「レリアが開発したあの・・・食べ物を温める事が出来る装置。あれはいいな。炒め物を美味しく温め直す事が出来る。何でも、聞けば今ではアレでチンするだけで食べられる食品があるそうじゃないか」

 ――電子レンジの事を言っているらしい。が、彼女には悪いが恐らく帝国以外の国はほぼ普及しているんじゃないだろうか。
 白兵戦最強を誇る帝国の部隊。しかし、それは前時代的なもので彼の国の文明そのものは100年前のままストップしている。まさに生きた化石というやつで今でもその成長は止まったままだ。故に通信機器の使い方も知らなければ電子レンジも知らないし、恐らく自分の荷物の一つであるパソコンなんて未知との遭遇に他ならないだろう。

「ああ、お前が言う通り、帝国には電子機器の類がほとんど無い。けれど、そういう国が一つくらいあってもいいだろう?手先は器用なんだ、あたし達はな」

 勿体ない、と思う。手先が器用ならそっちの道だって選べたはずだ。けれど、彼等彼女等はその手に武器を握る事を選んだ。頭脳派である自分には理解出来ない選択肢なのだが、武闘派である彼女等にはそちらの方が良かったのかもしれない。
 ふとこちらの状態に気付いたデルクの足が失速する。そのまま隣に並んだ彼はいつもの人当たりの良い笑みを浮かべていた。

「楽しそうな話をしてますね、エディスさん。ジルヴィアさんの端末操作の失敗談も聞きたいですか?」
「こ、コラ!貴様は本当にあたしの神経を逆撫でするのが得意だな!」
「えっ、割と思うんですけど、ジルヴィアさんって変な所で怒り出しますよね。そういうところ、ちょっと引きます」

 呻り声を上げ始めたジルヴィアをどうどう、と宥める。確かに彼女は少しばかり落ち着きが足りない事があるとは思う。え?失敗談?聞きたいに決まってるじゃないか。

「聞きます?聞きます?もう、ジルヴィアさんってば俺から端末の操作方法聞けって言われたらしくて素直に俺の所に来たんですけどね?この画面の――」
「ええい、止めろと言っているだろ!?」
「うわ、力強っ――」

 とうとう奇声を上げ始めたジルヴィアの遠慮容赦無い暴力がデルクを襲う!対するデルクは思わぬゴリラ腕力にドン引きの様子だった。遠目から見ても繰り出される右ストレートが信じられない力を持っていると分かる。
 やんややんや、とどちらを応援するでもなく声援を送っていると不意に何か肩に触れた。ぎょっとして振り返ると無表情のアルハルトが喧嘩を見ているような見ていないような虚ろな双眸で立っていた。何これホラーか。

「これはどうした」

 眠そうな目で瞬きを繰り返している彼は少しばかり呆れているようだった。まるで姉弟みたいだ、と言えば二度見される。そんな否定しなくてもいいんじゃなかろうか。

「進まないな。止めてくる・・・いいな?」

 有無を言わせぬ問い掛けに全力で首を縦に振った。何で彼、時々滅茶苦茶恐いんだろう。いつも通り眠そうにしていてくれればいいものを。