4
ところで、場所がそれなりに遠いので泊まりだ。片道半日掛かるくらいだろうか。自分の体力が付いていくか大変心配である。
「泊まり!?というか、レリアはどうするんだ。連れて行くのか?」
彼女は留守番だ。1泊2日の予定だし、その程度ならこの人形の身体が不調を起こすことも無いだろう。
だろうな、とジルヴィアが鷹揚に頷いた。
ところでこちらからも提案がある。
スライムの主な攻撃手段であり、人間には効果のない『腐敗液』。あれを吐きながら奴は移動するのだがそれに当たってはならない、というルールを設けたい。
「・・・何故だ?」
「そうですよ。こっちはスライム亜種っていう魔物の基本情報さえ知らないのに!あ、でも負けないんで期待しててくださいよ、エディスさん」
「勝敗は良い。意図を知りたい、君の」
デルクの言葉を一蹴したアルハルト。そんな彼の双眸と目が合う。気づき始めてきたが、彼は真剣な――或いは興味のある話をしている時はちゃんと起きて話者と目を合わせてくれる。そうでない時は大抵起きたまま寝ているような状態だが。
意図なんて簡単だ。正直、失敗するとは思っていない。スパイスの足りない任務に、ほんの少し緊張感を足したいだけだ。
「そうか。それで後顧の憂いを絶てるのであれば」
乗ろう、と些か横柄に牽制は応じた。
それを不満げに見つめるデルク。やはり、根本的に彼等の相性は悪い。ここにジルヴィアを混ぜても同様だ。それが何かの足を引っ張らなければいいが。
「ふん、いいさ。あたしの実力が知りたいのであれば勝手にすればいい。確認作業に時間を割いた事そのものを後悔させてやる」
「あ、あの、救護班とかいないんで本当に怪我しないでくださいね・・・ね?」
「怪我の手当てくらい自分で出来る。戦場に立つ者の基本だろ」
そうは言うが皿の洗浄は出来ませんでしたよね。うるさい、と顔を赤くしてジルヴィアが地団駄を踏んだ。彼女は案外と落ち着きが無い。不機嫌そうな顔をしたデルクが「床が抜けるので止めてください」、と毒を吐く。自覚がある時、無い時があるのは明白だ。
そうこうしているうちにこれ以上話は無いと悟ったのか、アルハルトが一番に退席した。遅れて現状に気付いたジルヴィアが身を翻す。この場には何も準備が必要ない留守番のレリアと、さっさと自分の作業に戻った方が良いと思われるデルクだけが残された。
「ん?俺の準備ですか?やだな、俺はいつだって出られるようにしてあるんですよ。どうしてって、エディスさんの教えですから。俺、緊急特攻部隊だったでしょ?・・・まあ、一兵卒の俺の所属なんて貴方は覚えていないと思いますけど・・・」
「え、やる事が無いのならこの器具を運ぶの手伝ってくれませんか?だって、皆さん任務に出掛けて2日は戻らないんですよね?」
「えーとレリアさんって時々驚く程空気読めませんよね。それで、どれですか?」
慌ただしくレリアとデルクが出て行く。ロビーには相応しくない静寂が満ちた。
そう、そもそもこの別荘は5人だけが生活するにしては広すぎる。それぞれの性能チェックも良いが、滞在者を増やす事も念頭に置いて行動しなければ。適当極まりない3日間を過ごしたわけなのだが。