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 ――さて、肝心の討伐対象の魔物の話をしなければならない。ジルヴィアが言った通り、魔物には属性相性だの所属相性など色々な相性があり、それにあった戦闘スタイルを取るのが鉄則だからだ。

「スライム亜種?・・・亜種、とは何の事を言っている?」

 聞き慣れない言葉だったのだろう。ジルヴィアが眉間に皺を寄せた。しかしその疑問は当然であり、必然の疑問だ。彼女がここへ来るまでどんな生活を送っていたのかは知らないが『亜種』系の魔物は各国でも一部の人間しか知らない機密事項だ。例えば、にこにこしているデルクもその存在を知らないだろうし、顔色一つ変えないアルハルトも初めて聞いた単語だろう。
 まずそもそも、魔物には大まかに分けられた『型』がある。

「それは知っていますよ。不定形、獣型、人型、幻獣型・・・ですよ、ね?えーっと、スライムは確か不定形だったはずです。先輩がよくサンプルに取って来てました」
「さ、サンプル?そうか・・・さすが機械の国、よく分からない事をする」

 レリアの言い分は正しい。ただ、魔物関係の研究は進めば進む程謎を生むので日々更新されており、この常識がいつまで常識であるのかは知る所ではないが。
 ――ともかく、スライムは確かに不定形Eに区分される。形と、大まかな強さのランク付けだ。Eと言ったら徘徊する役立たずくらいの戦闘力しかないという事になる。なお、人型、幻獣型は口を利くものもいるらしい。さすがにその辺は出会って生きて帰った人間が少ないので何とも言えないが。
 スライムという魔物は腐敗液を撒き散らしながら目的も意味も無く周囲を徘徊するただの迷惑な魔物だ。そもそも、腐敗液は生き物に効かない。が、当然農作物に甚大な被害を出すという何となく迷惑な感じのそれなのだ。大きさもまちまちで、しかし数が多い。あちらの攻撃も効かないが一般人の攻撃も効かない、まさに不毛。

「だが、我々が駆り出されたという事はそれなりなのだろうな」

 頭の中まで眠っているのかと思ったがアルハルトの思わぬ鋭い発言により彼がちゃんと覚醒している事を悟る。一同の視線が剣聖へと集まるも、それ以上彼は何かを言う事は無かった。何となく詰めの甘い発言である。
 それで、と苛立ったようにジルヴィアが机を叩く。

「結局、そのスライム亜種というのはどういった生態の魔物であたし達は何の準備をすればいいんだ」
「あばばばば!?じじじ、ジルヴィアさん!?落ち着きましょうよ!」
「いや・・・何をそんなに怯えているんだ、レリア」

 機械の国出身の貧弱なレリア。その反応に戸惑ったジルヴィアが浮かしていた腰を再びソファに沈めた。毒気を抜かれたような顔をしている。
 さて、準備の話に戻ろう。
 ――各自何でも持って行きたい物を持って行って貰いたい。

「ちょっと厳しいですね。エディスさん、怪我人が出てもあれなんでもっと具体的に指示を出してください。この部隊、編成されたばかりですし・・・まあ、俺みたいな一兵卒が口を出すのも烏滸がましいんですけど」
「そうだっ!というか、お前の話は長すぎる!あたしには、長すぎるんだ!」

 話が長すぎる事を非常に簡単な単語で語って来るジルヴィア。もういい、分かったから取り敢えず落ち着いてくれないか。
 デルクが戦闘狂の彼女を宥めたところで今回の趣旨を説明する。
 そう、本来の目的は所謂『力試し』だ。誰も対処法を知らないスライム亜種。それが任務へ来た時点でそうすると決めていた。コイツがどんな魔物であるかを知った上で指示を出している。怪我人が出る事は無いだろうし、出たのなら出たで解雇を検討しなければならないだろう。
 故に、《特務》最高責任者である自分が知りたいのは彼等の臨機応変さと状況把握能力。戦闘面は次に回すとして、初めて闘う敵にどう立ち回るのかを観察したい。これからこの別荘に滞在する人間の数は倍以上になる事だろう。その時、誰を隊長に据えていいのかも考えなければならないわけだし。

「チッ、戦闘員じゃないくせに言うな、お前・・・オイ、どうなんだ剣聖。お前は不満とか無いのか!?」

 唐突に話を振られたアルハルトがのろのろと首を動かしてジルヴィアを視界に入れる。と、彼は一つ頷いてこう言った。

「すまない、聞いていなかった。もう一度言ってくれ」
「今一番大事なとこだったぞハゲ!」

 この時ばかりは彼女に心の底から同意した。