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執務室へ戻る。任務が無い以上、特にする事は無いのだが戦闘狂達が今日も元気に破壊活動に勤しんでいると思えば国へ任務の催促くらいせねばならないだろう。修理費馬鹿にならない。私持ちではないけれど。
――が、そんな心配は杞憂に終わった。
机の上に置かれた書類。その中に便箋が混じっているのを発見したのだ。恐らくは早起きしたレリアが持って来てくれたのだろうが、彼女は機械を弄くる事に長けていても書類を読み取る能力は無い。暗号化された国からの任務依頼を読めるのは自分だけだ。
便箋。まず目に入ったのは王国を示すエンブレムだ。間違い無く任務書。催促のお便りを書かずにすんで何よりである。
ペーパーナイフで封を開け、中を見る。まず目に飛び込んできたのは『所有遂行期間:3日』というブラック企業真っ青の文字である。いやいや、ちょっと無理が過ぎないか。確かに優秀な人達ではあるが、それだって移動時間は短縮出来ないんだぞ。
――いいや、今日出発しよう。幸い、別荘にいる人間は珍しく全員起床している。今から任務の話をして異を唱える者はいないだろう。身体が鈍ってきている、とか言っていたわけだし。
大した任務じゃない事をすぐに悟り、踵を返した。ただし、レリアが作ってくれた『緊急非常用ブザー』は当然押す。どこにいるのかも分からないメンバーを足で走って集めるつもりなど毛頭無い。
***
所変わってロビー。
ソファにはゴロゴロと体格の良い部下達が狭そうに座っている。人数分の椅子があったのでそうしたが、2人用ソファに男2人で座っている様は見ていて心地の良いものではなかった。
「え、任務ですか?わぁ、やっと外へ出られますね!いやぁ、一生この不毛な共同生活続けなくちゃならないのかって最近はハラハラしてましたよ!」
「それはそのまま君に返そう」
アルハルトが小さく溜息を吐くがお構いなくデルクは満面の笑みを浮かべている。本当、口を開けば碌な事言わないなコイツ。それで、とジルヴィア男共を一瞥し、こちらに視線を移す。
「どんな任務だ?相応の準備をしたい、内容をそろそろ教えろ」
割とやる気の面々を見つめ、淡々と任務内容を告げる。
まず1つ、今回は自分も同行する事。彼等と自分の間に役割的信頼関係は無い。手練れと陛下がそう仰ったのならばそうなのだろうが、それがどの程度なのかを知らない。どこまで彼等だけで任せていいのかが分からない。故に、実力を計る意味を込めての同行。今までそれで兵士達の戦闘を邪魔した事は無いので安心して貰いたい。
「着いて来るのか、君が」
眠そうな目のアルハルト。驚いている様子は無いが浮かない様子である。剣聖と銘打たれた彼の実力を計るなどと失礼千万な言い方をしているので仕方が無い事だ。
「大丈夫ですよ、エディスさんがそれで失敗した事ありませんし!うっかり入院した話の事はよく知らないので俺に訊かないでくださいね」
「ふん、お前の実力が足りなかった。だから上司に怪我なぞ負わせたんだろ。まあ、コイツの采配がゴミだった可能性も無きにしも非ず、と言ったところだが」
「やだな、その時の俺は長期遠征に出てたんですって。他の人達は知りませんけど、俺がエディスさんの仕事の邪魔なんてするわけないじゃないですか」
笑みを絶やさないデルクと睨み付けるように彼を見やるジルヴィア。犬猿の仲とはまさにこの事で、今まで感じた事は無かったがデルクの言いようが割とキツイ。寝起きにカレーを食べさせられた気分に似ている。
一先ず2人の喧嘩を諫める――が、次の事態が発生した。
「あ、喧嘩終わったみたいですよ。あの、アルハルトさん?ちょっと、どこに意識飛ばしちゃったんですか!?」
「・・・・・」
目を開けたまま寝ているのか?そんな疑問を抱く。レリアが必死に現実世界へ戻そうとしている牽制は虚ろな目で私の顔の上、つまり斜め上の天井を見つめていた。あまりにも下らないやり取りに辟易してしまったのだろうか。
再度アルハルトに声を掛ける。ようやくレリアか自分か、どちらかの声に気付いたのかゆっくり2、3度瞬きした彼は続きを話すよう促した。あなたのせいで話がストップしていたんですけど。