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「え?俺?俺ですか?いやだな、エディスさんに着いて来たに決まってるじゃないですか!陛下に直談判したら快諾してくれました!補佐として頑張りますよ!」
肝が据わっているとはコイツの事を言うのだと思った。平気で国王に直談判を思いつくあたり心臓に毛どころか二重構造になっている可能性さえ浮上してくる。というか、ここまで懐かれた経緯を誰か詳しく教えてはくれないだろうか。いいよ着いて来なくて。
ジルヴィアが何か言いたそうな顔をしているが結局何も言わなかった。自分達とは違う次元からやって来た異次元人だとでも思われているのだろう。
――さて、もう一人。顔見知りではある彼女。来た理由はだいたい分かっているし、分かっているからこそ罪悪感で一杯だ。
「レリアです。機械の国から来ました。えーっと、電子機器の整備とか、何か欲しい道具があれば私に言ってください。あ!戦闘には参加出来ません!」
「あたしの国には機器類がほぼ無いからな。正直、配布されたこの連絡端末の使い方すら分からん」
デルクに聞くよう伝える。バックアップとは言ったが、連絡端末の使い方を教えられる自信は無い。
そしてレリアは上手く伏せたが、恐らく彼女の本来の目的は人形である自分の整備だ。一人着けてくれるあたり、やはり自分の出で立ちが特殊なせいだろう。
「それで、俺達は何をすればいいんでしょうか?」
知らずに着いて来るとか言ったのか、この男。無鉄砲というか顧みずというか。先程まで剣聖と話していたこともそうだが緊張という文字が欠けている。
しかしこの面子だ。それなりの予測はついているに違い無い。
この部隊《特務》は兵団を何個も投入しなければならない場面において出る部隊だ。大人数を送り込んで多くの犠牲を出す戦闘、それを請け負うのが役目となっている。何故なら彼等は1個人で軍を凌げる手腕の人間だからだ。
そうか、と頷いて見せたのはジルヴィアだった。
「それは構わん、望むところだ、とでも言っておこう。だが、お前の采配が下手で負傷者が絶えないならば抜けさせてもらうぞ。あたしは怪我をする為に部隊へ所属したわけではないからな」
「好戦的な事だ」
「そうか。お前、剣聖らしいな。手合わせでもするか?」
「真面目にやるなら構わない。そうでなければ怪我では済まないぞ」
――殺伐。
デルクがジルヴィアへ言っていた「戦闘狂」という評価は間違っていなかったらしい。一方でアルハルトの方も彼女の申し出を受けるあたり、自分の腕に自信を持っている。何とも扱いにくい集団だ。
「あの、エディスさん。私の役目は――」
言わなくていい、と遮る。レリアが言わんとする本来の目的は分かっているし、何より誰もが気を抜けない人材だ。自分が実は人形だなんて露呈すれば指示系統にヒビが入る恐れもある。この公の場所で聞くべきではない。
さて、拠点に移動しよう。
場所は王国の片隅、出動しやすいよう国境付近に置かれた別荘だ。