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それにしても、と部下は空笑いに似た笑みを浮かべる。
「エディスさん、そもそも病気だったんですか?俺、一昨日帰って報告に行ったんですけど、怪我で入院してるって言われちゃいまして。えーと、誰だったかな・・・あの、よくエディスさんと話してた・・・」
恐らくそれは自分の上司だ。つまり、デルクから見れば階級は5つ程上の人物である。ややこしくなるので説明はしないが、どうやら自分の師であり先生でもある彼の人物には随分と面倒を掛けたらしい。ここを出たら礼を言わねば――出られたら、の話ではあるが。
しかし面倒な事になった。勿論この人形の身体は怪我なんてしていないし、うっかり自分で病気だと言ってしまっている。今更「実は怪我してます」、なんて言えるはずがない。
「ま、何でもいいです。エディスさん無事みたいだし。あー、そうそう俺、用事があったんですよ。もちろん、お見舞いに来たんですけどね?そしたら先輩がついでに言伝を、って言うんで。何度も連絡したんですけどエディスさん、端末の連絡にまったく応じなかったので・・・」
そういえば通信端末はどこへいったのだろう。というか、私物がどこへ消えたのかすら分からない。ただ、端末に繋がりはするのだからどこかにはあるのだろうが。
「まあ、端末の件はいいじゃないですか。どうしてかは知りませんけど、この病院って今機械の国の人達が一杯いてエディスさんの病室へたどり着くまで色々な書類書かされたんですよ。それでもこうやってエディスさんのお見舞いに行けてよかったです、はい」
前後の文脈が繋がっていない。嫌味を言われただけのようにすら感じる。
そういえば、用事とは何だろう。これもまた嫌な予感しかしない。
「用事?ああ、そうでした。えーっと、言いにくいんですけど・・・その、エディスさん、国王様から呼びだし掛かってます。退院してからでいい、って事でしたけど。退院したその日に呼びだしの話なんてしたくないですよね」
――何故そんな重要な話を見舞いに来てすぐにしなかった。
どいつもこいつも頭は花畑か。胃の辺りが痛んだような気がして押さえる。デルクに大丈夫かとしきりに心配されたが自分としては彼等の頭が大丈夫かと心配だ。
「気が立ってますね・・・。あ、リンゴ持ってきたんですよ?剥きましょうか。え?食欲が、無い?胃が痛いみたいですし、何か食べたら治るかもしれませんよ」
体育会系ならではの解答だが一般人には着いて行けない領域なので、やはり丁重にお断りした。なお、ここで「治癒魔法掛けますか?」と言い出すのが魔法使いだ。そして、咄嗟に受け取ってしまいそうになったが、そもそもこの身体は食物を摂取していいのだろうか。何も説明を受けていないのだが。
へへ、と何やら嬉しそうに笑ったデルクは言葉を紡ぐ。何の悪意も無く。リンゴを剥く手も止めず。
「俺、入団したての頃は手取足取りエディスさんに面倒見て貰ってましたよね。今は逆みたいで何だか新鮮です。いやぁ、怪我だって言ったり病気だって言ったり魔物化でもしたのかと思ってたんですけど、違ったみたいで良かったです。あ、でももしそうなったらちゃんと俺が介錯してあげますから!」
成る程。この会話から上の会話は全て悪意があったのだ。受け答えがしっかりしているから、白認定されたみたいだが。