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――なんでこいつはこんなに元気なんだ。
アルヴィンは内心でこっそり溜息を吐いた。相棒・レティシアは嬉々とした様子で懐中電灯を持ち前を歩いている。その足取りに躊躇や恐怖は微塵も感じられなかった。一方で忙しなく周囲に視線を巡らせているアルヴィン本人は微かな物音でさえその足取りを止めてしまう程度には怯えている。態度にはおくびにも出さないが。
――ざりざりざりざり。
そんな音が背後から聞こえた。砂の上にあるものを引き摺るような、それでいて生々しい重量感を感じさせる音。また気のせいかと思ったが、確認の為一応首だけ動かして振り返る。
「・・・・っ!?」
まず視界に入ったのは青白い、手。勿論人の手だ。
続いて暗闇から姿を現したのは衣類の類だ。女の人形らしい。前髪で表情は伺えない。
「レティシア!」
「はいはーい」
呑気な彼女が振り返る。同時に懐中電灯の光に照らされてその人形の全容が明らかになった。
わっ、とレティシアが少しだけ驚いたような声を上げる。
「本当に動いてる・・・。建て直した方がいいんじゃないかな、このお化け屋敷」
「・・・スイッチを探すぞ」
震える声を抑えつけまじまじと人形を観察するレティシアにそう促す。一人で電気を探しに行く考えなど毛頭無い。
「スイッチどこかなぁ。肝心な事教えてくれなかったよね、スタッフさん」
――いいから早くしろ!気持ち悪すぎるだろこの人形!
心中で絶叫しながら人形を一瞥する。
「・・・あ?」
「どうかしたの、アルヴィンくん?」
「い、いや・・・何でも無い」
――あれ・・・?これ、ワイヤー繋がってなくないかっ!?どの辺にワイヤーあるんだ!?
咄嗟に何でも無いと言ってしまったが、この情報は相棒と共有すべきじゃないのか。瞬時にそう考え直し、レティシアにその事実を伝えようと彼女の肩がある辺りに手を伸ばす。
が、その手は宙を掻いた。
「れてぃ・・・!・・・どこ行った!?」
彼女の姿はどこにも無かった。代わりに懐中電灯と思わしき光が早足で先へ行くのが見える。自分の足が遅かったからさっさとスイッチを探しに行ってしまったのだろう。変に肝が据わっている彼女の性格が災いした。
この広いお化け屋敷の中、明らかに人形ではない何かと2人きり。
「――冗談じゃ無い・・・っ!」
珍しく荒げたアルヴィンの声は当然ながらレティシアには届かなかった。