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「何も無いね。やっぱり振動で電源入るなんて気にしすぎなんじゃないかなぁ」
「さあな。だが、見回るだけで給料を貰えるんだ。あまり文句を言うな」
「いや文句じゃなくて・・・その、何かあるんじゃないかって」

 あまりに何もなさ過ぎと逆に心配になってくる。鈍感なレティシアでさえ恐怖とは別の恐れを抱き始めていた。だって、本当にちょっとの振動で電源が入るわけではないのならば、何の為にバイトを雇ったのだろうか。散財が目的としか考えられなくなるのだが。
 と言ってもほぼ一寸先は闇。懐中電灯で照らしている所しか見えないのでまだ人形の姿さえ拝んでいない。と言うのも、基本コース脇に並んでいるのだ。懐中電灯1本で道を照らしていれば必然的に人形を視界に入れる事は無くなる。

「というか、見た目に反して案外長いよね。この――」
「シッ」

 思わずその場に足を止める。アルヴィンもまた立ち止まって一点を凝視していた。何かいたのだろうか――

「音がした。そっちに光を当ててみろ」
「はー・・・いっ!?」

 少し大袈裟なくらい身体が跳ねる。
 光を当てた先にあったのは例の人形だった。動いている様子は無い。

「ビックリした・・・え、案外リアルだね。本当に血塗れの人かと思ったよ」
「まったくだ」

 苦悶に歪んだ顔、額から流れ出る血液、どれを見ても本物のようにリアルだ。近くへ行けば偽物と分かるだろうが、こう離れた所では本物に見えても何らおかしくない。
 人形にばかり気を取られていたレティシアは気付かなかったが、アルヴィンは顔色を悪くして小さく小さく溜息を吐いていた。

「動いてないみたい。じゃ、次行こうか」

 ――物音なんて全然気付かなかったよ、さすがアルヴィンくん!
 これたぶん、何か起きても相棒がどうにかしてくれる気がする。と、レティシアは楽天的に、足取り軽く進行を開始した。ぶっちゃけ、自分より強い人間がいる安心感のお陰かあまりお化け屋敷自体は怖く無い。