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スタッフと別れ、早速中へ入る。先程話していた場所は受付なのでまだ明かりも付いたままだったが、館内は思った以上に暗い。渡された懐中電灯のスイッチをすぐさま入れる。こんな一寸先は闇状態では転んで怪我する可能性が高そうだ。
「うーん・・・?」
最初に感じたのはどこか鼻につく臭い。決して良い匂いなどではなく、どちらかと言うと臭くて長時間この中にいたくない感じだ。どこかジメジメしているので湿気のせいかもしれない。
そして、空気。澱んでいる、止まっている、停滞している。
腐った沼の中にいるような、息が詰まるような空気。
成る程お化け屋敷としてはかなり出来ている部類ではないだろうか。仕掛けはともかく、ここまでの空気感を出せる本格的なお化け屋敷も珍しい。
「凄い空気だね。これだったら昼行っても怖いかも」
「・・・本当に怖がっているのか?」
「え?うんうん、凄く怖いよ」
何故だかアルヴィンに胡乱げな目で見られた。変な事でも言っただろうか。
――ああ!そうか、こんな人が造った仕掛けなんて怖くも何ともないんだね、アルヴィンくんは!
さすが優等生、という眼差しで高い位置にある相棒の顔を見上げる。変な顔をするな、と注意された。さすがストイックと名高いアルヴィンである。
「何かあったらすぐに引き返すぞ」
ポツリ、と相棒が呟いた。その言葉に首を傾げる。確かに魔物の類は出現するかもしれないが、この街中に危険な魔物がおいそれと出て来るとは思えない。
――ああそうか!転校生の私を気遣って!さすが優等生!
一拍おいた後、アルヴィンの気遣いに気付いたレティシアはぐっ、と親指を立てた。
「大丈夫だよ!この2ヶ月の間で強靱な精神力と常識を凌駕する新しい常識を手に入れたから!」
「・・・??」
アルヴィンが激しく首を傾げていたが、当然レティシアは気付いていなかった。そもそも身長差があるので彼女の視界に入るのは相棒の肩くらいだからだ。