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 行くか、と踵を返したところで再びスタッフに呼び止められた。

「あの・・・ちょっと注意事項があるので、それだけ聞いてもらえませんか・・・」
「注意事項・・・?」

 本能が告げている。何か、とんでもない事を言われるような、そんな気がすると。知らず、眉間に皺が寄る。少しだけスタッフが怯えたような顔をした。

「そんなに難しい事じゃないんです・・・。まず、人形がもし・・・まあ、たぶん無いとは思うんですけど、もし動いていたら絶対に近付かないでください」
「それはなぜだ」
「・・・ワイヤーを巻き取ったり引っ張ったりする事で、あの人形達は稼働しているんですけど・・・不用意に近付くと、ワイヤーに巻き込まれます・・・あの、間違い無く助からないので・・・はい」

 それは恐いね、とレティシアが他人事のように呟いた。緊張感がなさ過ぎる。

「あと・・・あまり騒がないようにしてください・・・周りに住宅地なんかはありませんが、ちょっと1度それで騒動がありまして・・・。まあ、こんな時間ですし・・・」
「ああ、分かった」
「アルヴィンくんはちょっと引くくらい静かだから大丈夫だね。私は気を付けないと」

 ――ひとりでギャーギャー騒ぐつもりなのか?
 困惑したものの、当然口には出さなかったので相棒からの答えは得られなかった。

「あのー、それと最後にですね・・・」
「まだあるのか」
「あのっ・・・すいません・・・。本来のコースから脇道を逸れると・・・締め切ったドアが1つあるんです・・・。まあ、じっくり見ない限り気付かないと思うんですけど・・・そこには、絶対に入らないでください」
「ふむふむ。それはまた、どうしてですか?」
「機材部屋です・・・ノコギリとかカナヅチとか、色々置いてあるので・・・怪我したら危ないですし・・・。まあ、こちら側からの注意は以上です。本当にお願いしますよ・・・」
「了解しました!じゃ、そろそろ行きますね」

 はい、とスタッフが微かに頭を下げた。とても経営者とバイトの関係では無いような気がする。