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「えーと、バイト内容の話をしても・・・?」

 スタッフの呟きで我に返る。ともあれ、応募してしまったものは仕方無い。何か危険な事があればそれに難癖付けて二度とバイトはしない、と言えばいいのだ。1回目はブラックバイトの実態を見抜けなかった自身の過失として、甘んじて受けよう。
 頷いて見せればスタッフは怖ず怖ずと話し始めた。何故こちらが恐れられているのかまったく分からない。

「えーっとですね、まずは館内を回ってもらって電気や人形を動かしているスイッチを切ってください。と言っても、私共ですでにほぼその作業は終わっていますので・・・」
「んん?じゃあそれ、もう消してるって事じゃないですか?」
「あの、何分割と古い建物なので。ちょっとした振動で電源が入ってしまう事がありまして。一応2度の点検を義務としているんです・・・」

 ――地震でも起きたわけじゃないだろうに。
 不自然極まりない理屈。これにかこつけてもう帰っちゃ駄目だろうか。やはり言い出した本人であるレティシアに視線を送るが、彼女はアルヴィンのアイコンタクトにまるで気付くこと無くうんうん、と頷いている。納得しているように見えるがそれは何らかの演技だと信じたい。

「で、次なんですけど・・・。人の怖がる声とか感情に惹かれて、魔物が迷い混む事があります・・・。まあお化け屋敷と言ってもこの程度の規模だし、そんなに恐ろしい魔物が迷い混む事もないので・・・それの退治ですね」
「了解しました!」

 ――え、受けるのか!?いや、止めた方がいいんじゃ・・・。
 ぎょっとしてレティシアを見るが、やはり彼女はその視線に気付かない。そう言えば、アルヴィン自身がどんな気分であったとしてもそれが顔に出る事は無いのだとつい先日誰かに指摘された気がする。

「・・・このお化け屋敷は、普段はどうやって運営している?」
「えっ!?あ、ああ・・・そうですねぇ。だいたいはスタッフ5人で回していますね・・・。電気仕掛け人形ですし、脅かし役に人間はいません・・・。管理室があるので、そこの映像水晶で館内の様子を監視しています・・・」
「そうか・・・」

 何かが怪しいのだが、かといって営業状況に不審な点は見られない。何か隠さなければいけないような雰囲気がただ漏れなのに、何を隠そうとしているのか分からない。
 ――が、俺達に危害が無ければ何でもいいか。
 たんに営業不振なだけかもしれないし。バイトではなく営業所とかと戦っているのかもしれないし。

「はいはーい!私からも1ついいですか?」
「えっと、何でしょう・・・?」
「これって、早く終わったら早く帰れたりしますか?」
「そう・・・ですね。優秀な学園生のお二人ですし、早く終われば、早く帰れますよ」

 では早く終わらせよう。長居は禁物だ。
 それに、とアルヴィンは背後の入り口を見る。そう、最低限の照明以外は切られている。それはつまり普段のお化け屋敷よりやや暗いと言う事だ。本当に長居したくない。