第1話

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 ――今日はルシアさんに運転してもらおう、そうしよう。
 掛けてあった車のキーを手に取ったブレットは密かにそう決意した、決意していた。車を運転するのは嫌いじゃないが、駐車場のアレコレを考えるのも面倒だし、何よりいつもいつも運転させられるのは堪ったもんじゃない。
 が、ルシアはリアルラックの方も持ち合わせていたようだ。

「今ちょっと来る時の事を思い出してたんですけど、巨鳥っぽいのを見掛けましたよ」
「お前何でそれを早く言わねぇんだよ!言えよ!」
「ぶっちゃけ、ミータルナで巨鳥見たくらいじゃもう驚かないっていうか」
「あー、まあ、一理ある・・・か?で、どの辺りで見たんだよ。ブレット、お前ちょっと運転しろ。ルシアに案内させるから」
「えぇっ!?だったらルシアさんに運転させた方が良いんじゃないですか!?」

 尤もだと思われたブレットの叫びはスルーされた。すでにジェラルドとルシアの両名は近隣の地図を覗き込んでああだこうだ、と作戦の話し合いを開始している。

「うう、何で僕がいつも・・・」

 ***

 ルシアが案内した場所は支部からそう離れていない、商店街だった。

「あれ、あの木に止まってるのを見たんですよ。いやあ、今考えてみればかなり大きい鳥でしたよ。何かちょろっと燃えてたような気もします」

 一つ頷いたジェラルドがルシアの指さした木に近付き、枝の一本をまじまじと観察する。何か分かったのだろうか、と先輩の隣に並んで同じ方向を見上げてみると、その枝が黒く焦げているのに気付いた。

「焦げてますね。ここに止まってたのは間違い無い――」
「んー、神霊じゃねぇのか?普通、低級だろうが何だろうが神霊なら自分の出す炎や水、或いは氷で辺りの環境を変えるような事にはならないはずなんだが」
「それはつまり?」

 新人の当然と言えば当然の問いに、先輩は簡潔にこう答えた。

「攻撃する意志がない限りは、燃えてようが何してようが木の枝を焦がすなんて力加減が出来てねぇ事にはならないだろうな、と」
「神霊って腐っても神様なんですね。一つ賢くなりました」
「神霊は別に腐ってないでしょ・・・まあ、碌なヤツがいないのは確かだけれど」

 最低級神霊、そう思っていたがそうじゃないようだ。
 それが幸と出るか不幸と出るか。