第1話

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「おはようございまーす」

 程なくして執務室にルシアが姿を現した。きっかり遅刻5分前。彼女は『決められた時間に来、決められた時間に帰る』事を何よりも優先しているようなので当然と言えば当然だが、初めての環境でよくも自己ルールを貫けるものだ。欲しい、その強メンタル。

「おーう、ルシア。早速で悪ぃが、仕事の時間だぜ」
「コーヒー飲んでからでいいですか。あ、今日は缶のやつ置いてないんですね。後で買い出し行きましょうか?」
「いや、ブレイクタイムは結構だけどな、仕事の話していいか?」
「そういえば、今日は他の方々、いらっしゃらないんですね」

 支度をしているルシアにジェラルドが写真を見せる。ちら、とそれを見た彼女は例の影を指さした。

「あ、これの始末ですか?」
「ルシアさんって、発想がかなり物騒だよね」
「韻でも踏んでるんですか、それ。いやだって、明らかに人間も食べちゃうサイズですよその鳥」
「確かに・・・」

 翼開長2メートルとちょっと。平気で山羊を襲う大型の鷲のサイズだ。それより大きければ大人の人間でもあの鋭い爪で鷲掴みにし、巣でバラして食べるくらいお茶の子さいさいに違い無い。であれば、尚更ルシアはブレイクタイムを満喫している場合ではないのではないか。
 それよりよ、とこれまた人間の感覚が麻痺してきているジェラルドが恐らくはずっと訊ねたくて黙っていたのであろう問いを口にした。

「ルシア。お前さ、これ撃ち落とせたりする?」
「鷲ならライフルとか持ってくれば可能でしょうね。ですが、それ以外の生き物なら銃なんて効きませんよ、多分」
「やっぱり?じゃあ俺、今日もフルかー。お前等、本当に使えねぇよな」
「僕もルシアさんも、人間の中ではかなり使える方ですよ。先輩や署長が可笑しいんですって。ねえ?」

 すでに上着を羽織り、外へ出る準備を整えていたルシアはブレットの言葉に同意するよう頷いた。しかし何故だろう、彼女に同意されても仲間が増えた気分にはならない。確かに彼女、メンタル面は人間のそれとは思えない程強いようだけれど。