第1話

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 プルルルルル、と支部から配給されているスマートフォンから電子音が響いた。着信音は連絡先によって分けられているが、この音は諜報部からだ。慌てて電話に出る。

「はい、こちらブレット――え?あ、調べてたんですね。・・・・あ、はい。了解しました」

 用件を一方的に告げられ、通話を切られる。何だか急いでいるようだ。カミラが支部長代理をやると大抵どこもあくせく働く事になるのである種日常ではあるが、彼女は働くのが好きだっただろうか。謎である。
 ともあれ、再び車の元へ戻る為踵を返しながら、ブレットは今し方の連絡事項をチームに告げた。

「次は4区へ行きましょう。諜報によると、今さっきから目撃情報が後を絶たないそうです」
「4区はあれですか?犯罪者の隠れ蓑的な場所なんですか?」
「うーん、そうなんじゃないかなあ。でも、今回は人じゃなくて鳥だけど」
「今日の夕飯、焼き鳥にすっかなあ。誰か一緒に飲みにでも行くか?」
「先輩・・・僕は今からの仕事がグロテスクじゃない終わり方をすれば行きますよ。ルシアさんはどうしますか?」
「行きますとも!」
「ノリ、良いなあ・・・」

 しかし、この仕事の結末を思えば思う程飲み会がお流れになる気がしてならない。だってこれ、炎鳥が本当の意味で焼き鳥になっちゃう可能性もあるし、冷凍もも肉になる可能性も否定出来ない。そんなグロい物を見たあとに焼き鳥――この人達、やっぱり精神面は完全に人間を辞めているとしか思えない。
 そして当然のように運転席に座っている自分を鑑み、ブレットは盛大に溜息を吐いた。現状において3人一セットみたいになっているが、これでは自分の役割は完全にアッシー君だ。冗談じゃ無い。たまには後部座席で目的地に着くまで心ゆくまで惰眠を貪りたい。

 ***

「あー!いましたいました!丁度あのビルの上辺りを飛んでます!」
「ルシア。お前さあ、目ぇ良いよな」
「AAですから。ブレット先輩、そこ右折です」

 4区に入った途端、窓を開けて空を眺めていたルシア。その行動は無駄じゃなかったらしい。4区に入ってすぐに彼女は目標を見事見つけた。
 ルシアの隣から空を見上げるジェラルドは上空をゆっくりと旋回している炎鳥の近付いた所でようやくそのリアル焼き鳥についてコメントする。

「ありゃ神性は感じねぇな。ただのデカイ鳥・・・じゃねぇか。燃えてるもんな、アレ」
「どうしますか、ジェラルドさん。先に言っておきますけど、私の拳銃じゃあんな高い所を飛んでる鳥なんて撃ち落とせませんよ」
「神性はねぇし、魔術の射程圏内にさえ入れば俺が撃ち落とすぜ。ブレット、追い付けそうか?」

 ――見て分かんねぇのか、無理だよ!
 と、叫びたい衝動を必死で押さえ、無理だろうなとは思いつつ炎鳥との距離を目算する。うん、普通に追い付けない。飛んでる鳥に地べたを這う人間が追い付くはずがない。

「無理ですね。先輩、箒に跨がって空とか飛べたりしないんですか?」
「あるっちゃあるが、鳥に追い付ける程早くねぇし、飛んでる間は別の魔術の併用が難しいから、最悪追い付くだけになっちまうが」
「マジレス止めて下さい」

 はいはい、とルシアが自己主張する。ミラーに映る彼女の顔は活き活きとしていた。何かとんでもない事を思いついたに違い無い。

「ジェラルドさんが私を乗せて飛んで、で、追い付いたら銃で撃ち落とせば万事解決ですね」
「おう、落っことしても文句言うなよルシア。相乗りはした事ねぇんだ」
「そこはそれ、私の《ギフト》で私だけは無事着地みたいな」
「落ちないように調整するって発想はねぇんだな」

 ――どうしたもんかなあ。
 一応車は走らせているが、追い付く気配は無い。離されている感じもしないが、それでも高度の問題で手が出せないのには変わり無いだろう。