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「カミラさんが偵察、って珍しいですね。何かあったんですか?」
現在はいないが、カミラという吸血鬼のメンバーは優秀だ。本来なら支部に常駐しているか、別件に駆り出されているはずで偵察などという諜報の仕事を請け負う事は無い。
渋い顔のセドリックは顔の前で両手を組んだ。
「とても本当だとは思えないのだが・・・その、4区でゾンビ事件が起きているらしくてね。ゾンビ化する可能性のある種族を送り込めず、唯一うちにいる吸血鬼の彼女が向かう事になってしまったのだ」
吸血鬼は大まかに分類すると『アンデット系』に属するので、ゾンビ化なんていう馬鹿馬鹿しいルールに巻き込まれる事は無い。ミイラ取りがミイラに、なんて事にならないようにという処置だが、署長も思いきった事をする。彼女が偵察へ向かっている間にも、何かが起きない保証は無いのに。
しかし、セドリックの言葉をルドルフは一笑に付した。
「ゾンビ!?このご時世にっすか!?アイツ等、死体にゴーストが寄生して生まれるって結論でましたよね?じゃあただのたんなる死体なんじゃないすか」
「どうも『そういう』ゾンビとは違うらしいのだよ。しかし4区の救援要請は・・・その、言い方は悪いかもしれないが、あまり信用出来ない」
「仕方無いですよ。5区はそもそも連絡手段が無いんで何とも言えませんが、4区は誤報率ナンバー1ですからね。ゾンビよりもっとタチの悪い何かかもしれないですし、優秀な人を偵察に送った方が良いと思います」
「おめぇ、上司に媚びるの得意だよな。ブレット」
「喧嘩売ってんですか?買いますよ」
啀み合うブレットとルドルフをオロオロと見つめるセドリック。
そんな空気を壊したのは、やっぱり執務室のドアが開け放たれる音だった。咄嗟にそちらを見やるとジェラルドと――もう一人、新人のルシアが入って来た。
「おはようさん。お、ルドルフいるじゃねぇか。珍しい」
「おはようございます。彼、どちら様ですか?」
肩に着いた雪を払いながら、ルシアが目を細める。暖房を付けてから数十分経っているので、室内が暖かかったからだろう。
「あん?誰だよこの人間の女・・・」
「ルシア=スタンレイさんです。ほら、この間言ってた新入りの・・・」
「ハァ?春に来るんじゃなかったのかよ。変な時期に来たな」
ルシアの横ではジェラルドが指さしてルドルフの説明をしている。当然、ウェアウルフである事も会話の中で告げたが、ルシアの反応と言えば「へぇ、そうなんですか」という実に薄いものだった。
「おう、人間!・・・ルシア、つったか?おめぇよぉ、カミラにはもう会った?」
「会っていませんね」
「マジかあ。いいか、ルシア!おめぇ、女だからって安易にカミラの味方に付くんじゃねぇぞ!ったく、女ってのは徒党組んで来やがって・・・」
「えっと、カミラさんって方は会った事がありませんけど、取り敢えずあなたの味方とやらになる事は無さそうですね。はい」
「キッツ!性格キツくね!?」
そりゃあなたの言い方が悪いからだ。そう思ったが脳筋寄りのウェアウルフにそれを説明したって多分理解しないので口にはしなかった。なお、ウェアウルフの名誉回復の為に言っておくが、彼等は決して皆が皆、脳味噌筋肉マンというわけではない。インテリ系も一定数いる。本当に。