第1話

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「そういえば、ジェラルド先輩達って一緒に来ましたね。まさか同じアパートに住んでるとか、そんな少女漫画的事態にでも陥ってるんですか?」
「えー。少女漫画だとしたら、もっと同じ歳くらいの超絶イケメンが隣には住んでて欲しいですね」
「あ?そりゃ俺の隣室は嫌って事か!?・・・つか、隣には住んでねぇよ。駐車場で会っただけだ」

 ルドルフのせいか、今日は昨日以上にルシアの口調がキツイ。そりゃあ、あんな言い方されれば苛立ちもするだろうけれど。
 すまん、仕事の話をしていいか。少しだけ困った様子のセドリックが不意に言い放った。申し訳無さそうにしなくても、全然話を切ってくれて構わないと言うのに、変な所で律儀というか気が小さいというか。

「で、署長。今日もお仕事どっさりってとこかい――」
「昨日、君が持ち帰ってきた召喚術式の概要と、関連組織が上がった」

 ――残業お疲れ様です、諜報員の皆様・・・。
 ブレットは心中で合掌した。いくら何でも上がるのが速過ぎる。そしてそれは、ブレットが諜報一徹を辞めた理由でもあるのだが。何せ、休みが休みじゃない。常に人の行動を観察する癖が付いてしまい、別に仕事をしなくていい時も怪しい人物の動きが視界に入ってしまってまったく身体が休まらないのだ。

「まず術師達だが、所属は《Narr》だ。本人達が自白したので間違い無い」
「《Narr》?珍しい所が出張って来ましたね。最近は大人しくしてると思っていたのに」

 ふん、と話半分聞いていたようなルドルフが鼻で嗤う。

「アイツ等、中小のくせしてやる事はご立派だからなあ。まさに三下って感じ。いっそ、これを機に壊滅させちまうか?」

 《Narr》と言えば目立った事件を『まだ』起こしていない、割と目に付く集団だ。去年は大暴れしてくれたが、そういえば今年はあまり《Narr》の事件は上がっていなかったような気もする。
 それに、多少動きが変で目立つとはいえ、ミータルナに点在する組織の1つでしかなく、手こずるような相手でもないので放置しているだけだ。数ある中の一つ、そこに特別な理由や事情はないだろう。
 つかよ、と天才術師は訊ねた。

「何であの中途半端集団が俺にも解読出来ないような術式なんて持ってたんだよ。気に入らないな」
「・・・君が苦い顔をして忠告した通り、あの術式を《Narr》に渡したのは間違い無く4番目だ。彼等も何が喚び出されるのか知らない、とそう言っていたのでね」
「はーん。やっぱりそうか。あんな凝った仕掛け残して行く天才中の馬鹿は奴くらいだからな」

 4番目、と首を傾げているルシアには気付かないふりを。ジェラルドはああいう風に茶化しているが、正直これで一時《Narr》に手出しが出来なくなるくらいの大痛手である。