第1話

2-7


「捕縛対象は彼等ですか!?」
「おうよ、捕まえるぜ!ルシア、危なくなったらすぐに呼びな!」
「りょうかーい!」

 ――この人等も切り替え早すぎるんだよなあ・・・。
 敵を見つけた瞬間、落下してぶーぶー言っていたはずなのに仕事モードへ切り替わる。特にジェラルドなんかは笑うだけで悪人面。どちらが正義のヒーローなのか分かったもんじゃないし、見方によっては凶悪面のお兄さんがローブ着た魔術師をカツアゲしているようにしか見えない。
 いやいや、こうしている場合では無い。相手の数は5人。数の上ではこちらが一応不利になるのだし、自分が遊んでいる場合じゃない。
 タガーを2本取り出す。術師しかいなかったのか、相手は皆杖や魔道書らしきものしか持っていない。接近戦で攻めるとしよう。

「――ジェラルド先輩、分かっているとは思いますけど、くれぐれも火は使わないでくださいよ!燃えます!」
「分かってるって!」

 最初に動いたのは当然ブレット自身だった。滑るような動きで右端に突っ立っていた術師に肉薄、タガーを振り抜く。

「ひっ!?」
「大人しく投降すれば怪我程度で済ませます・・・僕は」
「アンタ以外はそうじゃねぇのかよ!恐っ!警察恐っ!!」

 硬い感触。襲い掛かった術師の持っていた杖に阻まれた。足が止まった一瞬を見計らってか、パリパリという嫌な予感しかしない音を耳が拾う。術師だからか攻撃を繰り出す速度はかなり遅いが、1撃が大きい。あまり魔術を使わせたくない――

「動かないでください、ブレット先輩!撃ちます!」
「ルシアさん、こんな狭い場所で銃はまず――」
「えっ!?」

 狼狽えたようにルシアが引き金を引くのを踏み留まった。彼女はその手に1丁ずつの拳銃を持っている。集団戦、した事が無いのだろうか。普通ここで引き金引く?跳弾の危険性とか考えないのか、この人。
 無差別テロのような暴挙に、魔術を撃とうとしていた術師までその手を止め、戦々恐々とした目でルシアを見ている。当然だ。彼女の銃の腕がいかほどのものなのかは分からないが、外れた場合、跳弾で誰にその弾が跳ね返るか分かったものではない。

「あ、当たれば問題ありませんから、当たれば!」
「ちょ、大丈夫!?本当に当てられる、それ!?」
「当てます、えいっ!」
「引き金かっる!もっと躊躇おうよ!!」

 しかし時既に遅し。あんな事を言っていた割にあっさり引き金を引いた彼女の銃から乾いた音が1発、2発、3発――いや、撃ち過ぎィ!!

「あ、ありえねぇ!正気かよコイツ!おまっ、跳弾は自分にも当たる可能性があるって事忘れてんだろバーカバーカ!」

 3発放たれた銃弾。それはブレットのタガーを杖で受け止めていた一人に1発、まったく関係の無い位置でジェラルドを警戒していた一人に1発、もう1発は行方不明という恐すぎる結果を叩き出した。味方が負傷しなかったのさえ奇跡に思える。こればかりは敵とは言え、術師の絶叫に全力で同意したいものだ。

「・・・おー、お転婆っつーのかな、これ。まあいい!準備は整った!俺を野放しにしたのがテメェ等最大の失敗だぜ!」

 この混乱の中、着々と術式を編んでいたジェラルドが嬉々として声高に宣言した。「あ」、という残りの術師3名の声が見事に重なる。薄々気付いてはいたが、こいつ等ちょっと頭のネジが飛んでるんじゃないだろうか。