第1話

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「おー、うちの諜報は優秀だな。ポイントの特定が進んだってよ。もっと北にある地下だと」

 皮肉のこもったジェラルドの言い草に苦笑する。諜報は確かに優秀だが、地下のどの辺りで魔力波が観測されているのか分からないので先輩の気持ちが分からない事も無い。特に4区の地下道はかなり入り組んでおり、4区でそれを全て把握している人物はごく少数だ。
 といっても、道案内を要求するとぼったくられる可能性が高いし、現在においてそこまで切羽詰まった状況でも無いので彼等に道案内を頼む事は無いだろう。

「地下、ですか。ジメジメしてるんだろうなあ・・・」
「大当たりじゃねぇか、ルシア。本当酷いもんだぜ、4区の地下道つったら。しかも人間の血管みたいになってるからな。目的地にたどり着くのも一苦労だ、面倒臭ぇなあ・・・」
「あと、結構危険そうな視線を感じます」

 極力キョロキョロ周囲を見回さないように細心の注意を払ったルシアの言葉。やっぱり彼女、諜報向きだと思うんだけどな。
 ブレットは彼女の言葉に頷きを返した。

「気を付けて。4区から下は治外法権感あるから・・・あの人等、警察に捕まるとか関係無く襲って来る時は襲って来るからね」
「襲い掛かって来た場合は返り討ちにしても?」
「ああ、うん。いいけれど、さすがに殺したらマズイかな」
「そんな酷い事はしませんよ、たぶん」

 腕に自信でもあるのか、と笑うジェラルドにルシアもまた笑みを手向ける。何を言っているんだ、そんなニュアンスを含んだ笑みを。

「腕に自信はありません。全ては運次第です」
「刹那的に生きてるよなあ、お前」

 さてと、といい加減仕事をしろとブレットは先程から無駄口の絶えない先輩に視線を送る。ここからは魔術師の出番だし、酷ければこの後自分やルシアの手番は一切回って来ないだろう。召喚術を中断させる、なんて専門的な仕事は専門に任せて然るべきだ。

「じゃあ、そろそろお願いしますよ。魔力の探知はあなたにしか出来ないんですからね、ジェラルド先輩」
「はいはい、了解っと」
「魔力の探知、ですか。高度な技術を持っているんですね、ジェラルドさん。前の支部にはそんな事出来る人、いませんでしたよ」
「つか、そもそも外の世界ってそういう事する必要あんのかよ」

 ありますよ、と少しだけ――そう、何故か唐突に少しだけ憤慨した口調でルシアは主張する。

「強盗だって殺人事件だって普通に起きるんですからね。やっぱり、思考能力を持つ生物が一定数同じ場所で生活していると、何も起きないはずがないんですよ」
「お、おう・・・悪かったって、馬鹿にして」