第1話

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「どーだい、ルシア。割とブッ飛んでるだろ、ミータルナ」
「そうですね。宝石箱みたいな街だ、と聞いていましたが、実際は闇鍋ですよね。ここ」
「何が宝石箱だよ・・・誰だか知らんが、そいつもだいぶ頭やられてんじゃね?」

 運転しながらブレットは小さく溜息を吐いた。移動時間の暇を持て余しているのか、鬱陶しいくらいルシアに絡むジェラルド。その会話内容は思わずツッコミを入れてしまいそうなものから意味不明過ぎて理解を放棄したくなるものまで多岐にわたる。
 ちら、とカーナビの辺りに設置されているスマートフォンには諜報から渡された位置情報が大きく映っており、道に迷う事は無いが結構遠い場所で召喚術を使っているのが分かる。

「4区か・・・あそこ、置き引き激しくて車おけないんですよね」
「4区?そういえば、汽車に乗ってる時も『3区に到着しました』ってアナウンスありましたね」

 そりゃそうだろ、とジェラルドが笑う。何が面白いのかはちっとも分からない。

「ルシア、今いるここは3区だ。それは分かってるな?」
「はい」
「3区は基本的にこの街の肝だ。一番活気に溢れ、一番秩序に守られてる。ま、ミータルナの顔ってところだな」

 3区にはお馴染みのチェーン店だとか、服屋だとか、ショッピングモールだとか。生活に役立つ店から娯楽関係の店、或いは普通住宅地が立ち並ぶ。なお、ミータルナ支部は2区の入り口と3区の出口の間に建っている為、住所が長くて大変だ。

「4区ってのはな、その3区からあぶれちまった連中が住んでるのさ。下街っつーのかね、ありゃ。犯罪組織の温床で治安はかなり悪い。つっても、まだ下に5区があるからそこよりマシではあるが」
「4、5区問題も解決しなければならない問題の一つではありますよね。というか、ミータルナの治安が悪いって言うと悪いのレベルと通り越して現世の地獄みたいな・・・」

 5区は最早スラム状態だ。ついでにミータルナがガラクタシティと形容される理由でもある。文字通り捨てるのだ。生き物も、危険物も、不要物も、全てを。

「1区と2区はどうなっているんですか?3、4、5区あるんですから、当然ありますよね?」
「あー、1と2は別の意味でよく知らねぇんだよな。ただ、1区は立ち入り禁止区域になってる。2区は高級住宅地だよ」

 ――噂によると。1区には住んでいるらしい。現存する全ての生物に対する天敵であり、種超越した文字通り『神』の創造物が。
 結局『それ』が1区に陣取る限りはミータルナが平和と言われる事は無いだろう。一応、支部の方でもそこに何がいるのか予想は付いているのだ。乗り込む勇気も、兵力も、力も足りないので放置しているが。

「ルシアさん、好奇心旺盛そうなので先に釘刺しておくね。1区だけは絶対に立ち寄らないで。バリケードとか張られてないから、あっさり入れるけどあの中へ入って、帰って来た存在は唯の一人もいないから」
「え、行きませんよ。立ち位置禁止なんでしょう?」
「・・・なら、いいんだけど」

 手頃な駐車場を発見、車を駐める。3区から4区へ続く道のパーキングエリアだ。ここから歩きかよ、とブツブツ文句を言うジェラルドが助手席から降りて行く。
 ――さて、残り何時間あるのか分からないが、そろそろ諜報も新しい位置情報を仕入れている事だろう。2日とか経過しない限りはまだ時間があるのでじっくり行こうじゃないか。