プロローグ

3.



「はいは〜い。意識高い系の〜ヴェーラちゃんはどこに入るのかしら〜?」
「えっ・・・と、何だか棘がある言葉ね。レイラ」

 そうかしら、とレイラが本気で疑問そうに首を傾げる。そう、悪気は無いのだろう。悪気は。
 正規軍には師団が7つある。それぞれ属性が異なるのだが、これから大きく外れたジョブの人間が入団すると色々大変なので基本は自分に見合った師団を選んで入る事が出来る。
 そう、卒業順位上位者7名を除いて。
 主にオールマイティな生徒を育成している学園は卒業順位の上位7名のみ、学園側が振り分けるのではなく自分の行きたい師団へ好きなように入団する事を勧めている。
 あのさぁ、とルーカスが片手をひらひらと振った。何か意見があるらしい。

「なんで被っちゃ駄目なわけ?いいだろ、どこでも。好きなとこに入ろーぜ」
「お前はまったく人の話を聞いていないなっ!はっはっは!!」
「ウザ・・・」

 説明した教官が男性だったので、ルーカスの耳にはその情報が入っていないのだろう。想定の範囲内とはいえ、教えてあげるのを忘れていた。額を押さえたヴェーラは今更感満載の『例の件』について一から説明する。

「だから・・・私達が徒党を組んで上位を独占しようとした事がバレて、先生がもう仕方無いけど後顧の憂いを断つためにもみんな散り散りに別師団に入って、って言ったでしょう?」
「えー。いつの間にバレたんだよ、それ」
「誰かチクったんでしょう。まあ、もともとフェリクスが出世競争しようとか言い出したからバラけて入団するつもりではあったけれど」
「あれ〜。俺、そんな事いっ・・・ああ。言ってたかも〜」

 フェリクスの発言力が強いのは当然だ。彼はこのメンバーの主力。抜けているように見えて案外攻撃的だし、割と手に余る存在で苦手だ。

「じゃあどうします?今のうちに打ち合わせでもします?」

 ヒイラギの問いにそれがいいんじゃない、と一番にカイが頷いた。彼は直前にドタバタするのを嫌うので早めに物事を決めてしまいたがる傾向がある。

「ちょっと〜、いいかしら〜」
「ああ、どうしたっ!レイラ!お前から意見を言うのは珍しいなッ!!」
「珍しいというか〜。私、ヒーラーだから入団出来る師団が〜限られているし〜、下手に冒険したくないから〜無難に7師団に入りたいの〜。いいかしら〜?」

 一同が互いの顔を見回す。
 ややあってヴェーラは頷き、レイラへゴーサインを出した。

「いいんじゃない?誰も行きたい人いないみたいだし」
「わ〜い。就職決定〜」
「じゃあパーシヴァルさんはどこに行きたいですか?年功序列的に」

 一人だけ19歳であるパーシヴァル。一番落ち着きが無いものの、年長者である。彼は快活に笑って首を振った。

「俺はどこでもいいぞ!お前達が先に好きな所を選べ選べ!はっはっは!!」
「というか、みんな行くところ決めてるの?どこでもいい人達は後回しでいい?」
「あ?」
「えっ・・・ごめん・・・」

 どこでもいい、というパーシヴァルの発言にカイがそう尋ねたのだがやはり言い方が悪かったらしくルーカスが「何だって?」と問い返す。ガンを着けられたのかと思ったらしいカイは肩を竦めた。

「ねぇ、ヴェーラちゃんは行きたいところ無いの?そういうのちゃんと決めてそうだけど」
「行きたい所はあるけれど・・・私が先に決めていいのかしら。一応、進行取ってるし」

 わいのわいの、と揉めているレイラ以外の面々を見て額を押さえる。保母さんの気分だ。