6話 アルケミストの恋愛事情

03.お守り


 ***

 依頼人である王女様とのやり取りを終えたメイヴィスはぐったりと溜息を吐いた。解散の早さは一級品で、会議室にいたメンバーは必要事項が終わると同時にいなくなってしまった。時間が押しているのだろうか。
 そんな訳で現在会議室にいるのは行動がやや遅いメイヴィスと、そんな自分を待ってくれているアロイスだけが同じ部屋にいる。

「――あ、そうだ。アロイスさん」
「ん?」
「師匠の件が終わったら、その、ちょっとお話したい事がありまして。お時間良いですか? 忙しいのは分かってるんですけど……」
「ああ、勿論だ」

 ――何だか機嫌良さそう。良い事でもあったのかな?
 快諾してくれたアロイスの目尻は下がっており、穏やかな笑みのようにも見える。

「それと、アロイスさん。そのぅ、まだギルドを出て行くっていう意思は変わったりは……?」
「していないな」
「はあ、そうですか」

 二度聞いたら話が変わっていないかと思ったが、そんな事には当然ならなかった。

「――その、信用が無い事はよく分かったが俺は本当にほとぼりが冷めればギルドへ戻る気はあるんだ。ギルドでの生活は俺の性分に合っているからな」
「え? あ、そうなんですか?」
「お前は俺を何だと思っているんだ」

 帰って来るビジョンが全く湧かない。大変申し訳ないが、アロイスの言葉が真偽不明である以上、そのまま二度とギルドへは戻らない可能性の方に軍配が上がるのは仕方が無い事と言えた。
 そういえば、と話題を変えるように騎士サマが小首を傾げる。

「スポンサー殿から聞いたんだが、ページの解析中に気分転換で色々なアイテムを作成したそうだな? 是非、後で俺にも諸々の作品を紹介してくれ」
「え? ああ、はい。作ったとは言っても気休め程度のお守りなんですけどね……」
「お守り? 効果のハッキリしない物を作ったな。由緒正しい魔物の鱗だとかを使ったのか?」
「うーん、そうではないんですけど……。使用用途はハッキリしたマジック・アイテムです。性質上、私にとってはお守りのような物で。他に人に効果を説明した場合、十中八九コレをお守りとは言わないと言うでしょうね」
「また不思議な物を……」
「近々、アロイスさんにもお披露目するので待っていてくださいね」

 そうか、と微笑むアロイスを尻目にポケットの中に入った『お守り』を握り締めた。

 ***

 メイヴィスと別れた後、アロイスは地下へ向かっていた。今日はもう一つやりたい事がある。
 鍛冶士へ獲物の整備だ。武器はメイン、サブと色々持っているが使わないが故に整備を怠っている物もある。不思議なものでそういう時に限ってサブウェポンに頼らざるを得ない状況などに追い込まれるものだ。変なジンクスを現実にしない為にも、ギルドを離れる前に磨いでおきたい。

 ちなみに何度か利用したので分かるのだが、地下の鍛冶場での依頼は予約制だ。急ぎでお願いすれば追加料金で請け負ってくれる場合もあるが、横入はマナー違反。今から行ってきちんと予約を取ろう。
 ギルドマスター・オーガストの趣味なのか、ギルドに揃っている職人連中はとても良い腕だ。ここにいれば何でも揃うので早めに戻りたい所存である。

 そういえばメイヴィスの大事な話とは何なのだろうか?
 彼女の言動からして一緒に旅に出たいだとか、ギルドに定期的に帰って来いだとか恐らく可愛らしいお話だろう。後者はともかく、前者であった場合はどうしたものか。
 どうにかしてスポンサーを丸め込み、工房を確保出来る場所で活動した方が良いだろうか。今回もメイヴィスの能力を宛にしていたようだし、交渉次第では資金や場所の提供をしてくれそうだ。
 ともかく彼女はアルケミスト。その活動を妨げるような事にはなりたくない。ヴァレンディアの時のように活動出来るのならばそれが一番だ。

 ゆったり地下の階段へ向かっていると、丁度ロビーから出て来たヒルデガルトとナターリアに遭遇した。否、遭遇したというか2人して駆け寄って来た。用事があるのだろう。

「アロイス! ちょっと訊きたい事があるんだけどっ!」
「お前が俺に訊きたい事、というのは珍しいな。どうした?」

 ああその、と歯切れ悪く言葉を切ったナターリアは周囲を見回すと黙り込んだ。代わりに事の成り行きを見守っていたヒルデガルトが端的に用件を口にする。

「ええ、つかぬ事をお聞きしますが……メヴィから何か、お話はありませんでしたか?」

 ――2人に何事か相談していたのか?
 急に出て行くと言い出して申し訳無い気持ちになった。護衛が唐突にいなくなると告げれば、それはひ弱なメイヴィスは途方に暮れるだろう。
 ともあれ問いに対しアロイスは首を横に振った。

「忙しい事象を全て解決した後になら、何か話したい事があると言っていたな」
「ああ、そうなんだ……。ま、色々と整理してからの方がいいか」

 静かに納得した素振りを見せたナターリアがひらりと手を振る。

「話はそれだけだよっ! そうだ、今からヒルデとクエストに行くけどアロイスもどうかなっ?」
「すまない、今日はまだやる事がある。また今度誘ってくれ」
「りょ~!! じゃあ、あたし達は行くからっ!」
「それではアロイス殿、また今度ご一緒させてください」

 いつの間にあそこまで仲良くなったのか。ナターリアとヒルデガルトは肩を並べて去って行った。どちらも女性にしては高い身長なので目立つ事目立つ事。