6話 アルケミストの恋愛事情

02.プレゼン


 ***

 最早、恒例となりつつあるギルドの会議室にて。
 先日招集されたのと同じメンバーが再び集結していた。緊張感の拭えないメンバーに、メイヴィスは張り詰めた息を漏らす。ようやく高貴なスポンサーの佇まいにも慣れてきたばかりだと言うのに、そこへ自国の王族をブチ込む所業。流石の一言である。
 王妹殿はあまり刺々しい態度を取らないが、それでもプレゼンの出来によっては物理的に首を飛ばされかねない。気を引き締めて行こう。

 緊張のせいで緩い目眩を覚えていると、隣に座っていたアロイスが背中を摩ってくれた。子供に対するそれである。

「お前は本当に人見知りだな、メヴィ」
「流石に王族を前にすれば緊張もしますよ……。アロイスさんの前職では普通にあった状況なのかもしれませんけれど」
「はは、騎士団だって何も無い日に陛下と団欒する事など無いさ」
「え? あまりにも落ち着いているので、毎日交流があるものと思っていました」

 ――やっぱりこの人、心臓に剛毛生えてるな。
 高貴セットを前に穏やかな微笑みすら浮かべるアロイスをあらゆる意味で心から尊敬する。こんな豪胆な人間になってみたいものだ。

 緊張を飛ばす為かいやにアロイスが話し掛けてくるので気付けば結構な時間が経っていた。呼ばれてすぐに会議室へ来る事の出来なかったルイーズが揃ったので、ようやく会議が幕を開ける。
 進行は我等がギルドマスター・オーガストだ。タイガーマスクの奥に潜む綺麗な瞳がメイヴィスを捉える。

「話は聞いている。早速、ページの解析結果と新しいアイテムの説明を頼むぞ」
「わ、分かりました」

 招集前にスポンサーに3回くらいプレゼンを実演して「もういいだろう」、と呆れられた過去を振り返りながら、それをなぞるように説明する。緊張は人の感覚を狂わせるので、変なアドリブは入れないのが吉。
 カタカタと機械的に言葉を吐き出す事、15分。ようやく一通りの説明を終えた。後は顧客達からの質疑応答に答えれば錬金術師のターンは終了である。

「――えーっと、何か質問などは……?」

 ふ、と笑みを浮かべたルイーズ様と目が合う。柔和に目元を歪めた彼女が口を開いた。

「報告ご苦労。とても早い仕事で感心しているわ。流石、ジャック殿に推薦されるだけある。今の所、疑問に思う事は無いわね。正直、あまりにも専門的な話だったから使ってみない事には何とも言えない」
「あ、はい」
「よって、わたくしからの話は2つ。貴方の師との面会、報酬についてよ」
「お、お願いします」

 優雅に鷹揚に頷いたルイーズは2本立てていた指の1本を下ろす。

「オーウェンとの面会なのだけれど、今から手続きを進める事になるわ。空いている日はいつかしら?」
「いつでも問題ありません。空けます」
「分かった。念の為にもう一度言っておくけれど、オーウェンが面会を拒絶する可能性は大いにある。絶対の保証が出来ない事だけは念頭に置いておいて頂戴。加えて、面会が可能である場合には必ずアロイスを護衛として付けるわ。相手が何をしてくるか分からないから、絶対に傍を離れない事」
「分かりました」
「あともう1つ。作ったページを持参して頂戴。弟子相手に手荒な真似はしないと信じたいけれど、オーウェンが何をするのか分からない」
「あ、はい。了解です」

 勢いよく頷いたメイヴィスに、王女様は満足げな顔をした。

「ええ、それでは報酬の話なのだけれど――」

 あまりにも生々しい金銭の話となったので割愛させて頂く。