05.雨の中の調査
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件の村に到着した。特に名前の無い小さな村、人口は三桁無いかもしれない。すぐ近くに町があるので、物流には困っていなさそうだ。
オーガストは生存者などいないと言っていたが、確かに生存者はいなさそうだ。まるで、その村にだけ槍の雨でも降ったかのように建物は全て壊滅。ここが村という事前情報が無ければただの瓦礫の山に見えた事だろう。
粉々になった元は建造物であるそれは見れば見る程に痛々しい。
なお、現在も雨は降り続いている。
「マスターの言った通り、ウタカタの被害に酷似しているな」
「アロイス殿。ここは手分けをせず、固まって調査をした方が良いかと」
「そうだな。何が潜んでいるか分からない、一カ所ずつ検分していこう」
ヒルデガルトと短く言葉を交わしたアロイスがこちらを向き直る。村一つ壊滅するような騒ぎだ、自然とメイヴィスは背筋を伸ばした。
ここで、当初から雨の有無をずっと気にしていたナターリアが声を上げた。
「ねえ、やっぱりウタカタの仕業だったらさ、雨のせいで効果範囲って広がってるのかなっ!?」
「可能性はある……というか、かなり高い」
「対策が無いのは危険では?」
ヘルフリートが眉根を寄せる。それもそうだろう、もし本当にウタカタの仕業であれば身体が爆散したっておかしくはない。
言葉を受けたアロイスが左手を空に翳す。シトシトと降り続ける雨は、現状において有害ではないようだ。
「――今時点では特に害があるとは思えないな。ただ、動く時は慎重に」
「そうですね、了解。それじゃあ、調査を始めようか。メヴィ、こういうのはやっぱり君が得意だ。サポートするから何でも言いつけてくれ!」
唐突に話を振られて我に返る。そうだ、さっさと調査して帰ろう、何かが起こる前に。今回のクエストは見事な脳筋パーティだ。今思えば、自分がこの面子の中に加えられたのは調査を効率的に行う為だろう。
調査の指揮は任せて欲しい。心中でそう呟き、村内の最短ルートを考える為、一度口を閉じた。
「えぇっと、じゃあ、一先ずは民家の検証から行きましょうか。本当にウタカタの仕業なら、人体がこう……酷い感じに爆発四散しているだろうし。この雨だから流れてしまっているかもしれないけれど」
あまり言いたくはないが、一番に被害を受けた村民達の損傷具合からある程度、状況を絞れるのではないだろうか。
という考えが伝わったのか、ヒルデガルトが穏やかな顔で頷く。
「承知致しました。ではまず、民家の瓦礫から調べましょう」
「危険があるかもしれない。まずは俺達で瓦礫の山に何か潜んでいないか確かめる、少し待っていてくれ」
「はーい! アロイスさんよろしくっ!」
「いやナターリア、お前は力が強いのだから、瓦礫の除去作業を手伝ってくれないだろうか」
ピキッとナターリアの顔が引き攣る。が、彼女には悪いが今回ばかりはアロイスの言葉が正論過ぎる。ここで「か弱い乙女に――」などと怒り出せば困惑顔をされるだろう。
流石にそこまでは容易に想像出来たのか、ナターリアは顔を歪めるだけで黙って手伝いを始めた。というか、何もしてないのコレ私だけかもしれない、と頭の隅で考える。
「あーっと、アロイスさん? 私は何をすれば……」
いたたまれなくなって陣頭指揮を執っている護衛に訊ねた。こちらを見向きもせず、尖った瓦礫などを片っ端から脇に片付けているアロイスが短く応じる。
「ああ、これを退かし終わった後から手伝ってくれ。すぐに片付ける」
「あ、アイアイサー……」
――何も手伝わせてくれない!!
この間、アロイスを待たずに緊急クエストへ行った事を根に持っているのだろうか? いやいや、そんな事をネチネチ掘り返す御仁ではないし、そもそもメイヴィスが何をしていようと目くじらを立てたりはしない人だ。
であれば、新武器の話を振ってからだろうか。あの日から少しだけ、彼は過保護になった気がする。