真夏のホラー企画

03:インターホン


 2階での一仕事を終えたチェスターはリビングへと下りて来て、そして呆れたように溜息を吐いた。非常に冷え切った室内ではソファの上で蹲るように眠っているエレイン。仕事をサボってこんな所で何をしているのか。しかも冷房の設定温度が低すぎる。節電大事。
 設定温度を上げようとエアコンのリモコンを探していると、インターホンが鳴った。ピンポーンという一般的な音だ。今ここにはいないファウストやブラッドがこれを使う事は無いので客でも来たと考えるのが常套だろう。
 ――が、勿論、今日客が来るなどという予定は一切無い。
 アポ無し客は客ではない、そんな持論を抱えるチェスターは目付きも鋭く受話器横のモニターを覗き込んだ。いつぞやの刺客ならば二度とインターホンなぞ押せない身体にしてやる、と意気込んで。

「・・・は?」

 しかしモニターに映っていたのはそういう刺々しい不審者ではなく、まるで孫とおじいちゃんのような二人組だった。あ、まさか宗教勧誘の方だっただろうか。なら居留守に越した事は無い、とモニターを覗き込んだままジッと動向を探る。
 おじいちゃんのような人物は田舎でありがちな白いタンクトップ、短めのズボンで深々と麦わら帽子を被っている。その為か表情は見えない。ただ引き結ばれた頑固そうな唇だけがモニターに映っていた。少女の方は清潔そうな白いワンピース。白い麦わら帽子を被っており、やはり引き結ばれた唇。両者が会話している様子は無い。
 パッと画面が暗転した。録画時間を越えたので自動的に画面が消えたのだろう。これでは外の様子が分からない。
 瞬間、外からガンガンガンガン、というドアを殴りつけるような音が響いた。
 人様の家に何してくれてるんだ、チェスターは一つ舌打ちすると玄関へ小走りした。このままではドアが壊れるし、何より煩い事この上無い。

「おい、何の用なのかは知らないがそちらがその気なら相応の対応を――あ?」

 開け広げた玄関には誰もいなかった。逃げられたのだろうか。

「何やってんだ、あんた。庭の掃除でもするのか?」
「あ?・・・あ、お帰りなさいませファウスト様。言っておくが、こんな暑い時期に庭掃除などしないぞ」

 ふと顔を上げると買い物帰りらしいブラッドと、いつの間に外出していたのか屋敷の主人が歩いて来ていた。玄関から半分だけ身を乗り出した自分を不思議そうな目で視ている。

「ファウスト様、2人組とすれ違いませんでしたか?」
「いいや」

 多くを語らない主人はただジッとインターホンの辺りを見つめていた。