真夏のホラー企画

04:おめん


 7月最後の日曜日。
 少し早めの夏祭りが行われた。街の人々と交流のあるファウスト一同も当然参加した祭は大盛況。祭と聞けば街を跨いでやって来る者、偶然通り掛かった旅人などいつもより賑やかだ。
 エレインは屋台で金を出して貰うべく、なるべくチェスターについて回っていた。というのも、勿論給料はちゃんと貰っているが割と財布の紐が緩い給仕長は食べ物くらいなら強請れば買ってくれると踏んでの事である。
 案の定、少しばかりうんざりした給仕長――否、保護者は眉間の辺りを押さえるとこう切り出した。

「おい、何が望みだ。見ての通り私は暇じゃない」
「リンゴ飴買ってくださいよぅ。あれ、美味しいんですよね」
「そのくらい自分で買え!何の為の給料だ!」
「いやだなぁ、チェスターさん。祭って言うのは保護者に買って貰うからこそじゃないですか!さ、子供に貢いでください!」
「意味が分からない上に貴様の保護者になった覚えも無ければ、お前は子供なんていう歳でもないだろう!?」

 溜息を吐きながらもチェスターは手近にあったアメを売っている店へ入っていく。何やかんや言っても甘いのだ、我等が給仕長殿は。
 勝利にほくそ笑みながらチェスターの後に続く。
 ぶちぶち文句を言いながらリンゴ飴を二つ購入している上司を尻目に、ふとエレインは隣の屋台に気付いた。綿飴を売っている店で、不思議と人が周囲に寄りつかない、ぽっかりと空いたような空間。
 興味本位で覗いてみると着流し姿の男がパイプ椅子に座り新聞を読んでいる。接客する気の無さに思わず笑みを溢したが、笑い声が聞こえたのだろう。男が立ち上がり、ぶら下げられた綿飴を掻き分けながら出て来る。

「何か買って行くかい?」

 出て来た男は面をしていた。子供受けするキャラクターのお面ではなく、少し恐い感じの――そう、般若を模したような面。こんなもの被っているから客が寄りつかないのではないだろうか。
 不意にエレインは気付く。

「あのぅ、そのお面・・・前、見えてますか?」
「ああん?冷やかしかい、お嬢ちゃん」

 面はどうやら被る為のそれではなく、飾り物の面らしい。両目の部分は空いていないし、口の部分もぴったり閉じている。そして木製だ。よくもこんな重そうな面を着けていられるものである。
 気を悪くしたようでもなくクツクツと嗤った男は肩を竦めた。

「前なんざ見えちゃいないさね。でもおいちゃん、ちーっと顔がねぇ・・・あれなんだよ、あれ」
「はぁ、あれ、ですか・・・」
「はっはっは!そーんな怪しい奴見るような目ぇすんなよ!」
「え?」
「ところで、向こうの金髪にーちゃんはお嬢ちゃんの事を捜してるんじゃねぇのかい?あ、それともわたあめ、買って行くのかい?」

 エレインはその場から猛ダッシュで逃げ出した。