第2話

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「最近、裏山――えーっと、エレインちゃん達が住んでいる辺りにモンスターが出るんだ。俺達もどうにか退治しようと頑張ったんだけど、ちょっと手に負えなくてね・・・」
「そうなんですか?えー、新種のモンスターとか外来種とかかなぁ・・・」

 人外とモンスターの違いはひとえに人間の言葉を理解出来るか否かだ。何故人間が基準なのかはブラッドには分からないが、とにかくこの曖昧な規定に容易に引っ掛かるようでは人外とは言い難く、住人が「モンスターである」と断定した以上やはりモンスターなのだろう。
 といっても思想、言語を理解出来ない生き物だからといって決して弱いわけではない。知性を持つ人間でさえ餌にされる程度の生物的強者、それがモンスターだ。
 アルマトランは人外が多い割りに平和ボケした街である。
 それが野性的なモンスターに敵うはずがない。

「さっきも言ったように、報酬は払う。いつも世話になっていて悪いが、そちらにしか頼めないんだ」
「まるで、傭兵業だな」

 うっかり漏らした言葉に視線が集まる。バツの悪そうな、しかしやっぱり引き下がる気の無い視線。余計な事を言うなと言わんばかりで胸糞悪い事この上無い。やはり街単位の大きな共同体は苦手だ。集団圧力ほど鬱陶しいものは無いし、人外でありながら群れているのは正直な所気に入らない。
 所詮世の中は弱肉強食。屋敷が襲われれば自衛する他無いが、それ以外なら引き受ける必要も無いだろう。少し抜けている先輩サマにそう助言しようと身を屈める――

「まぁ、ブラッドさんは最近働き始めたばかりですから。勿論、引き受けますよ!ご褒美は期待していていいんですよね!」
「は!?いやちょっと待て、俺達にメリットは無いだろそれ!」
「えーっと、討伐終了したら報告しますので、それまでは山に近付かないでください!」

 自分が余計な事を言わないようにだろうか、一方的にそう捲し立てたエレインはすぐに踵を返した。存外に強い力で腕を引かれて言葉を呑み込む。足を向けた方向が家の方向だったので、一瞬だけ抵抗したブラッドは小さな溜息と共にエレインに続いた。