第2話

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 慣れた道を身軽に歩いて行く。道とは言っても山道なのでよくここを通る人物でなければこれが道だとは思わないだろう。突き出した枝を素手で折り、後ろを着いて来ているエレインが躓かないようにする。

「そういえば、お前は何でこのバイトを続けているんだ?」

 何となく会話が途切れたタイミングでそう問い掛けた所、エレインは間髪を入れずこう返した。

「他に行く所ないんですよねぇ。それに、ファウスト様には拾って貰った恩もありますから!」
「・・・そうか」

 ――力仕事とかきつくないのか?
 そんな言葉は呑み込んだ。現在、力仕事と銘打たれるそれらはブラッド自身の仕事だ。もしかするとあまりそうだとは思えないがチェスターが以前は担っていたのかもしれない。
 街に到着し、露店辺りにまで足を運べば途端にエレインは街の住人達に囲まれた。何でもよくお遣いに来るのですっかり顔を覚えられてしまったそうだ。そも、街以外に住んでいる人間が何故こんな人気者なのかはさっぱり理解出来ないのだが。

「おやぁ、あんた使用人になったのかい?」
「エレインちゃんがそう言うのならそうだろ」
「男手が増えてよかったねぇ」

 四方からそう声を掛けられ閉口する。こういう場合何と答えればいいのか分からなかったのだ。が、そんなブラッドの困惑を余所に妙齢の住人達の話は盛り上がっていくばかりだ。
 そういえばチェスターがわざわざ紅茶の茶葉だのコーヒーの豆だのを買いに来た時もこの盛況っぷりだった。何か事情があるとしか思えない。帰りにでもエレインに話を聞いてみるとしよう。

「あー、エレインちゃん。ごめんね、お屋敷の方々にお願いがあるんだ。勿論、報酬もある。話を聞いてくれないか?」
「ん・・・?」
「はーい、どうかされたんですか?」

 話の流れが変わった。
 それまで整然としていた音が消え、代わりにそう申し出た男に視線が集まる。少しばかりバツの悪そうな顔をした20代後半くらいの男はブラッドにとってほんの少しだけ信じ難いお願いを始めた。