2-1
「屋敷へ戻るのか?」
それまで無言で歩いていたのだが、ふとブラッドはその方向が屋敷へ向かうものではないと気付いた。屋敷までの道のりは一本。一つ横に逸れただけで大分違う場所にたどり着いてしまうのは織り込み済みである。
「いいえ、戻りませんよ」
「まさかとは思うが、今から依頼をこなそうとか思ってないよな」
「一度戻っていたら二度手間じゃないですか。ついでに寄って帰りましょうよ」
それならそれで構わないが。ただ、自分をあてにするのは止めて貰いたい。ファウストやチェスターのような化け物ではないのだ。モンスターが本当に強かった場合は逃亡も視野に入れるくらいの力だと正しく認識していればいいのだが。
――いや、やっぱり危険だ。どうにか一度帰るように説得しよう。
何よりエレインを怪我させて怒られるのは間違い無くブラッド自身だ。別に恐くも何ともないがむかつくのも確か。
「あのぉ、一つ訊いてもいいですか?」
「あ?何だよ」
「ブラッドさんがたまに言う、『スキア』って何なんですか?何となくファウスト様の事を言っているのは分かるんですけど・・・」
「・・・は?何でお前知らないんだよ・・・」
「え、知ってて当然みたいな反応止めてくださいよぅ!もしかして私だけハブられてるんじゃないかって不安になるじゃないですか!」
――いやそれハブられてるよ・・・。
言い掛けた言葉を慌てて呑み込む。余計な事は言わないに越した事は無い。
あまりにも今更感のある質問に一度閉口したブラッドは斜め下に視線を落としながら、侍女の問い掛けに答えた。
「スキアっていうのは家系だ。旧き者の仲でも別格、御三家の一つ。ま、具体的に何をする家系なのかは黙秘主義だから知らないが」
「はい?ちょっと意味が分からないんですけど・・・」
「人間で言う財閥みたいな・・・?いや、俺も実際何やる家なのか知らないんだ。あれだ、あれ。何かよく分からないけど偉い人みたいな・・・」
「何ですかそのふわふわした説明!」