第2話

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「ところで、お前、仕事には慣れたか?」

 エレインが起きて来るのを待っていたチェスターが不意にそう訊ねてきた。思わぬ問い掛けに一瞬だけ息が止まる。彼等は「やった側」であるがブラッドは「やられた側」。圧倒的実力差を目にした時の事をまだ忘れてはいない。

「別に・・・慣れるも何も、普通に仕事だな」
「イエスかノーで答えられない若者みたいだな」
「何だよそれ」

 ドタバタ、まさにそんな音が鼓膜を叩いた。下っ端侍女が慌てて2階から降りて来たのだろう。数秒のうちにリビングへ転がり込んでくる。埃が立つから止めて欲しい。

「すいません!寝坊しちゃいましたぁ!!」
「騒がず座れ、エレイン!お前は本当、たまに寝坊するな・・・」
「だって!今日は誰も起こしに来てくれなかったんですよぅ!」

 手櫛で髪を整えたエレインがブラッドの隣に腰掛けた。そういえば、彼女にとってこの労働は重労働に分類されるはずだが、特に弱音を吐いたり疲れ切ったりしている所を目にした事が無い。単に割と体力がある方なのか、或いは人前でそういう事を言わないタイプなのか。後者はあり得ない気がする。
 ファウストがいただきます、と先に朝食を食べ出したのでそれに倣う。上司と部下のやり取りになど、正直興味はなかった。

「・・・・・」

 それにしても――気まずい。よく喋るエレインは食事に夢中で一言も発さないし、チェスターは言わずともがな、食事中に何かを話したりしない。ファウストは日によって違うが、今日は黙ってこちらを凝視している。端的に言って居心地が悪い。
 ――何か言いたい事でもあるのだろうか。しかし、先程朝一で出会った時は特に何か用事がある様子など無かった。では、何か気に入らない事でもあったか?この短時間の間に?
 ブラッドは気付かない。エレインが暴れたせいで舞い上がった埃が、丁度肩の位置に乗っかっている事に。

「エレイン、今日の予定はどうなっている?」
「え?ああ、今から買い物に行きますよぅ。用事ならブラッドさんに――」
「いや、俺も同行する。荷物重いだろ」
「あ、そうなんですか?」

 何とかこの気まずい空間から逃げ出すべく、エレインへの同行を申し出る。半分は本当に荷物が重そうで不憫に思ったからだが。

「それはいいが、昼までには戻れ。お前達には仕事がある」
「ああ、分かった」