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これ以上外にいてもどうしようも無いからか、屋敷へ撤収した。ブラッドはまだ生存しており、その事実に多少なりとも動揺を隠せないでいる。今、自分はチェスターの気分次第であと何分生きられるのか決まるのだ。
「あれ?早かったですね。ピクニックか何かだったんですか?」
リビングにて。午前2時であるにもかかわらず、一人ティータイムを楽しんでいたエレインが首を傾げた。いや、不気味なのは彼女の方である。
まったく予想外の光景が広がっていたと感じたのは自分だけではなかったらしく、額に青筋を浮かべたエレインの上司、チェスターは淡々と部下にこう命じた。
「お前正気か・・・?まあいい、全員分の紅茶を淹れろ。後でちゃんと片付けろよ、ホント」
「はいはーい!了解しました!」
深夜にしてはテンションが高いエレインは快く承諾するとキッチンへ駆けて行った。空気を読まない姿勢はいっそ清々しい。
一応並んだ4つのティーカップ。まさか毒なんて入っていないだろうが、それより飲まずにさっさと逃げた方がいいのではないだろうか。いつまでここにいればいいのだろう。いや、いつまでって事は無い。恐らくは今からの時間にブラッドという自分の命運が決まる。
こんな依頼、関わるんじゃなかった。エレインを除く全員が戦闘に巻き込まれたはずなのに、自分だけが怪我をしているのはおかしい。
「で、ブラッドの処理についてなのですが。私はさっさと始末するべきだと思います、ファウスト様」
「ふむ・・・」
紅茶に視線を落としていたファウストがゆっくりと顔を上げる。屋敷の主人と目が合った。何を考えているのか分からない、深淵を連想させる瞳。薄い唇を開きかけたファウストだったが、不意に横合いからエレインが不満そうな声を上げた。赤い瞳が少女に向けられる。
「困りますよぅ!よく働いてくれるし、情報漏れ防止の為にここで住み込み下働きして貰いましょう!力仕事も出来るし!」
「ふむ・・・ところでエレイン。この紅茶は、蒸らしすぎだ」
「あっ、すいません!」
再びファウストと目が合う。今度こそ何かしら処遇を決める気になったらしい彼は、カップを置いた。