第1話

2-5


「・・・・・・・爆発しないな」
「いえ、そんなタイミング良く爆発したりはしないでしょう」

 暫く外を見ていたファウストがポツリとそう言った。エレインもなかなかにドラマ脳のお花畑娘だが主人も主人で純粋が過ぎる時がたまにある。この発言が如何にドラマの観すぎであるかよく分かるからだ。
 それにしても、と赤い双眸が伏せられる。憂いのある表情は一枚の絵にも見えるが、何より理解出来ないのはその双眸の先にブラッドがいる事だ。

「自爆するつもりだったのだろうか。私に、そこまでの恨みがあるようには見えなかったのだが」

 ――確かに。ブラッドは今日一日の行動を見る限り、驚く程俗物的な人物だった。行動はその全てが合理性に基づいていたし、その端々にファウストへ対する憎しみや恨みは見えなかった。正直、復讐の為に自分の人生を全て捧げられるような人物ではない。

「何がそこまで彼を駆り立てたのだろう。お前なら分かるのか?チェスター」
「え?いえ、そんな事を聞かれましても――」

 多分騙されて時限爆弾掴まされたんだと思いますけど、そう返すつもりだった。が、声は外からの爆発音で掻き消される。さっきなげた爆弾が爆発したのだろう。結構な威力である。これならポケットに入れていたブラッドは粉微塵に消し飛んでいたに違い無い。
 が、今の大きな物音で不都合が2つ生じた。

「う・・・なんだ・・・?」

 1つ、気を失っていたブラッドが目を醒ました。人外に薬なんて長く効果が続くはずもないのでこれは当然だ。

「ファウスト様、ファウスト様ー!?ご無事ですか!?何か今もの凄い音しましたよ、生きてますか!?」

 ガァンガァン、とノックというよりドアを叩く音。一番焦っているであろう乱心した口調。
 2つ、爆睡していたエレインが起きてきた。こいつ、見るからに主人を助ける気は無さそうである。むしろ助けてと言い出しそうな空気だ。
 ゆるやかに進んでいた時間が早送りで進み始めたような感覚。額を押さえたチェスターは今から始まる面倒事を思って渾身の溜息を吐いた。視界の端では相変わらず無表情のファウストが部屋のドアを開け、エレインを中へ招き入れる姿が写っている。