第1話

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 ファウストが再び口を開いたのは朝食を片付けたエレインが元気よく買い出しに出掛けた後だった。子供のように駆けだして行った彼女を見てポツリと呟く。

「たまにはああして私も外へ出たいものだ」

 ――先週出掛けたんじゃなかったのか。
 思ったが口を噤む。確かにそれ以降外出していないのならば息が詰まる想いだろう。と言っても自分は何日でも家で過ごせるタイプなのでいまいち理解出来ないが。

「息苦しいかと思われますが、外出はもう少し期間をお開けください。誰が貴方様を狙っているか分かりません」
「・・・ああ」
「退屈ならボードゲームでも何でもお付き合いしますので」
「いや、外の空気を吸いたい」

 ――まずいな。外へ出る為の口実として何か起きないか、そう言い出しそうな空気だ。
 主人を軟禁している気分になってくるのであまり外云々の話はしたくないのが事実である。先週の一件も自分に話すより比較的操りやすいエレインを選んで声を掛けたのだろう。そこまでして外に出たいのであれば外出の準備を命じられた方が良かった。結局、この屋敷はファウスト自身の命令で動いているというのに、何故隠れるような真似を。
 赤い視線が窓の外に投げられる。

「・・・エレインを迎えに行った方が良いような気がする」
「はい?さすがに道に迷う程馬鹿では・・・帰巣本能強そうだし・・・」

 今日もこちらが引く程朝から元気だった部下の顔を思い浮かべる。人間界で育てられたあのバイオゴリラが家の場所を間違えるなどあり得ない。

「そうか」

 その後、一時窓の外を眺めていたファウストだったが、2杯目の紅茶とチェスの準備をすれば大人しくそれに興じた。なお、チェスの腕は弱過ぎて困惑するレベルだった。