第1話

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 思考は現場スタッフの一人が小走りで近付いて来た事により、強制的に中断された。走って来たスタッフの男性は真っ直ぐに嫌な気配が漂ってくる方向を指さす。

「特壱の皆様、ご案内致します。こちらへどうぞ」
「おーう、現場、どーなってんの?鵜久森は何か聞いたっぽいけど、俺と加佐見はよく分かってねぇんだよ」

 スタッフは少しばかり顔を曇らせると上総の問いに明確な答えを寄越した。

「この先に大きな綻びが出来ています。よく開く、人が一人通れるようなものではなく、まさにクレーターのようなサイズです。あの分だと、塞ぐのに2週間以上は掛かるかもしれませんね」
「はあ?マジかよ・・・もしかして、霊術院創立以来なんじゃね?大事件か?」
「ええ。恐らく、霊術院の歴史に刻まれる大事件だと思われます・・・」

 綻び、と言うのは人界と霊界を繋ぐトンネルのようなものだ。ただし、それを開けるのは容易ではなく、人間だって宗連くらいしかそのトンネルを開通させられる人物はいないかもしれない。
 それはいいのだが、綻びは創るのが難しいだけで、出来上がってしまえば誰でも通れるのが難点だ。一度開くと、閉じるまで延々と見張っていなければならない。加えて、未だかつて直径2メートル以上の大穴が出現した事はただの一度も無い。

「その綻びに飛び込んだ先鋒組が戻ってないらしいけど、それはどうなったの?まだ連絡も来てないの?」

 鵜久森の問いにスタッフは深く頷いた。

「綻びに降りられる者が他にいなくてですね、まだ安否の確認すら出来ていません」
「そうか・・・。救援が優先かな。死人が出ると書類処理が面倒なんだよ」
「鵜久森さん、不謹慎ですよ・・・」
「あ?お前、あたしがここに来て、同僚が何人お陀仏したと思ってんだよ。不謹慎もクソもあるか」

 そういうものなのだろうか。いまいち、危機感を抱けない。いつだってそうだ。危機管理能力、と言うより危険察知能力が低いのは自分の悪い特徴である。危ないだろうな、と頭では分かっているのに「多分、僕は大丈夫なんだろうな」という楽観視が抜け切らない。

「あー、もう案外、人外の餌食になってたりしてな。綻びから出て来る人外って強ぇんだよ・・・やっぱ自分の意志で無理矢理穴開けてこっち来るだけあるぜ」
「そうなんですか?」
「加佐見。お前くらい抜けた能力持ってりゃ、そんなボンヤリした調子で済むんだろうけどな、俺には死活問題なんだよ」
「え。そもそも、上総さんって何かと戦ったりしませんよね?」
「いやそうだけど。怪我人の面倒を見るのはいつも俺じゃん?被害規模とか遠回しに気付くじゃん?」