第1話

3-7


「お前を見てるとさ」
「え?」

 久しぶりに浮いた気分だったが、ふと溢れた上総の静かな声に我に返る。
 自嘲めいた大人の男性は続けてやはり自嘲めいた言葉を吐き出した。

「熱い鉄をさあ、型に嵌めること無く、そのまま固めてる気分になってくる・・・」
「それは・・・ただの鉄塊ですね・・・」
「・・・・・そうなんだよなあ・・・・・」
「あのー・・・悩みがあるのなら、聞きますよ。話だけは・・・」
「話だけかい。いやいや、気にするなって。お前には多分、縁のない話だよ。俺の悩みを聞いて対策を打ってくれなきゃいけないのは多分、鵜久森や柊――」

「ふぅん、何か厄介事?けどお前の相談に乗る前に、仕事を片付けて貰わないと。悪いね」

 ノック無し。我が物顔で上総の部屋に乗り込んで来たのは、今まさに槍玉に挙がっていた鵜久森その人だった。
 いつだって不敵でニヒルな笑みを浮かべている彼女は今日も今日とて変わらない姿だった。私服の上に高そうな羽織を着ているが、何かの霊的アイテムのような気がしない事も無い。

「あー、加佐見に仕事か?」
「馬鹿、お前も同行するんだよ、上総。久々に大仕事だろうな、これ。終わったら打ち上げ行くからそこでその『悩み』とやらは聞いてやるよ。悩み、っつーか多分それ業務連絡なんだろうけど」
「はあ?いいよ別に・・・柊もお前も飲んでばっかで話聞いてくれないじゃん」

 ふて腐れたように言う上総を完全にスルーした鵜久森は、加佐見の隣にどかっと腰掛けた。

「わっ・・・!?」
「あ?お姉さんが隣に座るのは嫌なのかよ」
「そういうわけじゃ・・・ただ、結構緊張するんで・・・その、離れて欲しいです」
「嫌です。じゃ、仕事の説明するぞー」
「うう・・・鵜久森さん・・・意地が悪い・・・」

 つかよ、と上総が訝しげに眉根を寄せた。

「え?俺、お前、加佐見の3人で仕事?何そのメンバー編成。サブクエみたいな」
「さぶくえ?何言ってんのお前。悪いが、見ての通り残り物の掻き集め編成だよ。柊達は先行ったし、ちょっと不足の事態でそこそこ強いあの刀の人霊は待機だ」
「えええ。俺弱いってみんな知ってるだろ。死ぬ」
「死ぬような仕事じゃないよ・・・多分」
「多分!?おまっ・・・」
「うるさい。黙って仕事の説明を聞け」

 結構理不尽に感じるくらいバッサリ言い放った鵜久森が手に持っていた書類に視線を落とす。

「あー、何か巨大な綻びが出来てて、それから出て来る人外の後始末があたし達の仕事だよ。でっかい綻び作ってくれちゃってるから、有無を言わさず強制処分かな。つか、救援要請来てっから、確実に怪我人出てるなコレ」
「ハァ?俺等より先に現場行った連中がいるのかよ。それとも、柊達からの救援要請か?」
「いや。だから、アイツ等は別件。・・・つっても、『綻びの修正手伝い』、つってたし無関係じゃないのかも」

 ぺら、と書類を捲った鵜久森はあ、と短く声を上げた。

「ど、どうかしたんですか・・・?」
「ごめん、上総。何かさ、『激しい戦闘になる事が予想される』って書いてあるわ。死んだかもね」
「うぉい!待機!俺が真白の代わりに待機するって!」
「戦える奴を一人残しとかなきゃいけないんだって。宗連さんいないし」
「不在!?あの人、毎度毎度どこ彷徨いてんの!?管理人なんだよなあ!」
「というか、戦うのはあたしと加佐見で十分だろ。怪我人がいるんだって言うから、お前は応急手当要員として連れて行かないと」
「うう・・・!俺が一番の怪我人にならなきゃいいけどな!!」