第1話

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 ゴホン、とさり気なく仕切り直しの咳払いをする。今からようやく本題に入るが、それまでの件が長すぎてもうちょっとどうでもよくなってきた。

「あの、僕、そのうち誰かを傷つけてしまうんじゃないか、と」
「んん?誰かって誰だよ。うちのメンバーの中に、お前のうっかりで怪我する間抜けは俺ぐらいしかいないぞ」
「上総さん・・・そこは怪我しないって言ってくださいよ・・・。別に、具体的に誰、って話しじゃないんです。見ず知らずの誰かを、うっかり、みたいな・・・」
「ご、ごめんちょっと待てよ。おまっ・・・それを俺に聞かせてどうして欲しいんだよ・・・!何その答えの無い相談は・・・」
「上総さんなら、何か良い考えがあると思って・・・」
「いや、ねぇよ!?俺はほぼ未能力者みたいなもんだしさあ」
「色んな学生の相談に乗ってきたんでしょう・・・?誰か一人くらい、それで困ってる人は・・・」

 ここで初めて上総は少しばかり考える素振りを見せた。が、ややあってその頭を緩く横に振る。

「よく考えたらお前みたいに繊細な奴、あんまいなかったわ。伊織くらい戦闘狂、って奴もいなかったけど・・・」
「そう、ですか・・・」
「一応聞くけどさ、まさか誰かをブン殴りたいとか、そんな気分なの?今」
「えっ!?いや、そんなバイオレンスな事は・・・考えてませんね」
「だよな。なら、それでいいだろ。ほら、お前みたいな特付き術師ってのは、原理じゃなくてフィーリングの問題なんだから、お前が人に怪我させないよう注意してりゃ、大事故にはならんよ。そのプルタブだって、お前は千歳原の為に缶を開けてやろうとしたんだろ?」
「ええ、まあ・・・そのつもりでした」
「じゃ、今後とも人に使う時は細心の注意を払う、としかアドバイスのしようがねぇな。何か起きた時は起きた時。責任を取るのは多分、俺達保護者勢だからあんま気負うなよ」

 ――それ、余計にプレッシャーだなあ・・・。

「あれだな。とにかく、その念動力だけは無意識下で使うな。無意識、っつーのは力の加減が利かないだろ?俺達が自動車に乗っているとしたら、お前はロードローラーに乗ってるようなもんだ。無意識でアクセル踏んだら大惨事になっちまう」
「あ、ああ、確かに・・・プルタブの時も、ほとんど無意識だったような・・・」
「ふぅん。なら話は早い。お前がやるべき事は一つだ。無意識で能力に頼らないよう、日々意識をしっかり持って生活することだな」
「はい・・・!さすが上総さん・・・!これで今日、眠れずに悶々と考えずに済みます・・・!」
「・・・そんなに大事だったの・・・」

 夜中にベッドで一人うじうじ思い悩む時間が削減出来た事を、加佐見は心から感謝した。それが根本的解決に至っていない事は薄々理解していたが、そこまで望むのは高望みである事にも当然気付いている。
 それでも、上総は数少ない『他人が一笑に付すような悩み』を一緒に考えてくれる人物だ。それに、無理して能力制御の練習をしろとも言って来ない。