第1話

3-2


「いいのよ、そんな事しなくて。パシリみたいじゃない」「炭酸にしろ」

 主従の言葉が見事に被って歪な二重奏を奏でた。
 まさに正反対な主張をした二人は顔を見合わせる。その表情も実に対照的だった。被った、とニコニコしながらそう言う真白に対し、千歳原は喉が渇いたとジト目である。
 いいから、何が飲みたいのか言ってくれ。それを口実に、少し待機室から出て外の空気を吸いたい。

「おい、小僧。俺は炭酸が入った飲み物を――」
「駄目よぅ、千歳。加佐見くんはあなたの小間使いじゃないんだから」
「年長者を敬うという心を俺はこの餓鬼に教えているのだ、邪魔をするな」
「もう、もっともらしい理屈をこねくり回して。屁理屈は良く無いわよ」
「屁理屈なものか。それに、本人が行くと言っているのだから別に構わんだろう」

「あの。いいですか・・・僕も喉が渇いているんで・・・お金さえ貰えれば何でも買って来ますよ・・・」

 長引きそうだったので無理矢理割り込んだ。何だろう、このデジャブ。
 瞬間、部屋の隅に寝転がっていた千歳原が何かを放った。それは空中でピタリと動きを止める。

「財布・・・」
「ほう。便利な力よな、念動力」
「これ、人相手には・・・あまり、使えないっていうか・・・」

 言いながら財布を手に取る。可愛らしい、茶色の財布だ。
 もう、と真白が肩を竦めた。

「ごめんね、私の分は良いから、千歳のだけ買って来てね。あ。何か食べたいお菓子があったら、その財布から出していいからね、加佐見くん」
「えっ、いや、別に食べたいモノなんて無いんで・・・」
「難儀な性格をしている。が、今日の真白の財布には大した札も銭も入っていないぞ。大した物は買えんだろうな」
「ちょっと、どうして私の財布の中身を知ってるのよ」

 長くなりそうな気配と面倒臭そうな気配を察知。咄嗟に加佐見は踵を返し、待機室を飛び出した。ああ、早く先輩達帰って来ないかな。