3-3
和風な雰囲気漂う箱庭荘にはあまり似合わない、自販機置き場。購買の横にあるその場所に人の姿は無かった。購買の店番をしているおばちゃんも椅子に座って新聞を読み耽っている。
――そんな自販機群の前。自動販売機でジュースを買うのを防ぐようにして大きなクーラーボックスが置かれていた。
「なんだろう・・・?」
クーラーボックスには貼り紙がある。
真っ白な紙に墨で『ジュースを大量に頂いたので、ご自由に取って下さって構いません』。綺麗な字だ。恐らく、管理人・宗連が書いたものだろう。全くこのような状況は予想していなかったが、人のお金だし、自分のお金も使わないで良いのならそれに越した事は無い。自分、真白、千歳の分だけ貰おうとボックスを開けた。
――確か、千歳原さんは、炭酸がいいって・・・。
炭酸水もあったが、味が付いていないと文句を言われそうだったので無難にブドウソーダを取る。真白が何を飲むか不明だったので、リンゴとオレンジの缶を一つずつ取った。
戦利品を両手に、部屋へ戻る。
「ただいまー・・・。あの、ジュース貰いました」
待機室へ戻り、事の次第を何とはなしに説明する。真白は何やら楽しげに聞いてくれたが、千歳原はそうではなかった。
「おい、それはいいが、炭酸はあったのだろうな」
「ありましたよ・・・はい、どうぞ」
「うむ、良くやった。誉めてつかわそう」
「何でこんなに偉そうなんだろう、この人・・・。あ、真白さんはリンゴとオレンジ、どっちが良いですか?」
「うーん、リンゴジュースかな。何だか久しぶりな気がするわぁ。ありがとう、加佐見くん」
ジュースを受け取った真白が早速缶を開ける。それを横目に加佐見もまた、手元に残ったオレンジジュースのプルタブを上げた――
「おい。この缶とやらはどうやって開ける?」
「え?・・・うわっ!ちょっと、千歳!刃物は仕舞いなさい」
「知らぬ。どういう構造になっているのだこれは・・・」
首を傾げる千歳原のその手には和風ナイフ――小刀のようなものが握られている。それでどうやって開けるつもりなのか恐くて訊けなかった。