第1話

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 日曜日は箱庭荘でバイトする日だ。そして、それは今日も例に漏れず。しかも日曜日は所謂、オールとかいう時間帯で、朝から夕方までは何があっても無くてもいなければならない。とは言うが、ほぼ菓子食べて適当に昼食摂って、家で夕食を食べるとお金が掛かるので夕食まで食べて帰るだけなのだが。あれこれ保育園?
 現実逃避をしたくなる程に、その日は暇だった。日によっては箱庭荘へ出向いた途端、仕事を押し付けられたりもするのだが、今日は――今日に限っては本当に平和だったのだ。

「加佐見くん、これも食べてね。とっても美味しいのよ」
「あ、それ・・・さっきも貰いました・・・」

 待機室には現在、およそ3人の人間とその他が思い思いの場所に腰掛け、仕事が割り振られるのを待っていた。
 そんな折、加佐見に菓子を差し出して来たのは真白だ。緩くウェイブした長い茶髪に、黒い瞳。上品な感じが漂う大学2年生。自由を謳歌し、満喫している大学生らしさと大人の女性らしさの狭間にいるような人で、加佐見は彼女を前にしても軽く緊張してしまう。
 ――が、そんなむず痒いような空気を一瞬でクラッシュする存在が一人。否、一体。

「おい。俺にもそれを寄越せ。というか、貴様等がコタツを独占しているせいで寒い思いをしているのだ。菓子の一つや二つ、献上して然るべきではないのか」
「あらあら、ごめんね千歳。ほら、確か甘い物は苦手だったわね」
「それは俺ではなく!あの目付きの悪い人間の男だろうが!」
「あら?そうだったかしら」

 彼の正式名称は千歳原永次三津。何て読むのかよく分からない上、最初に出会って彼の口からその『名称』とやらを聞かされた時は呼ぶのを諦めた程だ。そして彼は人間ではないもの、即ち人外であり、元は人間だった人外という意を込めて人霊とそう呼称されている。なお、獣霊などもいるので『霊』とだけ呼ぶのは不適切だと、2年前あたりの会議でそう決まったらしい。お偉いさんは暇なようだ。

「あの、千歳原さん・・・これ、僕は抹茶はいいので・・・」
「ふん、気が利くな小僧」
「あ、加佐見です」

 菓子受けに入っていた抹茶チョコを千歳原に投げ渡す。睨み付けられた。
 ――真白といると緊張する最大の理由。それが彼、千歳原だ。彼は契約人外なので真白とあまり離れる事が出来ない。かなり特殊ケースらしく、本来、人外を嫌う組織である霊術院側はそれを容認するのを嫌がったが、宗連の一声でここ、箱庭荘で受け入れる事になった。
 主従契約の一環なので、主である真白の方が立場は上であるはずなのだが、2人を見ているとそれを微塵も感じさせない。むしろ千歳原の方が幾分か偉そうである。
 ――うーん・・・早く仕事来ないかなあ。いいな、式見先輩達・・・早くこの空間から出たい・・・。

「あ。そうだ・・・ジュース、買って来ましょうか?飲み物、ないみたいだし・・・」