第1話

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「読んでみて、加佐見くん」
「あ、はい。えーっと・・・『走行速度が異常に速い為、肉眼ではほとんど残像しか捉えられない。が、大変臆病らしく、人間が近付いただけで逃げ出すようだ。上手くこの情報を活用してくれ』、だそうです・・・」
「追い込み猟にしよう」

 スパッ、と即決断したのは式見だった。彼は一瞬だけ顎に手を当て、何かを思案したようだったが今ではそれがいい、とうんうん頷いている。
 双子の片割れがそれはいいけれど、と顔をしかめた。

「どうするの?三カ所から徐々に真ん中に追い込む?逃げられないかなあ、それ・・・」
「失敗したら別の手を考える」
「ふーん。そっか・・・じゃあ、適当に3カ所に別れて、この地点を目指そう」

 伊織がいつの間に出したのか、現場付近の地図を指さす。地図、と言っても恐らくは上総あたりから配布された簡易マップのようなものだが。
 その簡易マップにメモを書き込んだ伊織がメンバーにその画像を送信する。

「じゃあはい、この場所に着いたらまた連絡してね。途中で標的と出会ってもすぐに連絡するんだよ」
「穏便に行こう」
「そうは言うけれどね、式見。相手が抵抗するのなら躊躇っちゃ駄目だよ、安全第一だから。自分が死にそうなら、いっそ――」

 伊織はその続きを口にはしなかった。が、彼女は元々そういう気質のある人なのだ。自分を害する者に対して容赦がなさ過ぎる。人間のルールが適用されないこの空間だからこそ赦される事を彼女はいつだって思い描いているのだ。
 ――ああ、どうか、式見先輩が言うように穏便に終わりますように・・・。
 顔には出さず、心中でそう祈った加佐見は伊織から渡されたマップを頼りに持ち場へ向かい始めた。

 ***

 家などの障害物があった為か、少しばかり時間が掛かった。持ち場に着いたという連絡をメンバーに送る。ややあって、伊織から『作戦開始』の合図が掛かった。どうやら持ち場に着いたのは自分が最後だったらしい。
 マップを見ながら、言われた通りのルートを通って結界の中心地を目指す。歩いてみれば分かるが、案外遠い。運動場2つ分とは言え、障害物が多くあるからその分多く歩かなければならないのだろう。