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不運な事に、現場は完全に住宅地だった。たくさんのアパートやマンション、或いは一軒家が並んでいる。住人の避難にどれ程時間が掛かった事だろう。裏方の皆さん有り難うございます。
「避難理由がガス漏れって事になってるらしいね。今連絡来たけど」
「ガス漏れ、ですか・・・。まあ、そりゃ避難しなきゃとはなる理由ですね。こじつけ感ありますけど・・・」
「ネタも尽きて来るよね。さすがに悪霊だか怨霊だかが徘徊しているので避難してください、を真に受ける人間なんていないだろうし」
「そうですよね。・・・あ、僕、同業者の方に中へ入るって連絡します」
「お、ありがとう。加佐見くんは気が利くなあ」
「何ですか、そのどことなく鬱陶しいタイプの上司みたいな発言・・・」
言いながら今回支給された連絡先にパッ、と結界の中へ入るという旨の連絡を送る。連絡機器が無い時代なんか、大変だったんじゃないだろうか。ただでさえ、現場へ来たと言うのに同業者の姿は見当たらない。
そうこうしているうちに、結界区内へ入ったのか、一瞬の違和感に身震いする。と、その後を追うようにして結界師連中からの返信が来た。
――『結界の中へ入れるように、観測地点から結界に穴を空けておきます』。
まずい、多分穴空ける前に入っちゃった。
「加佐見くん・・・」
「す、すいません!つい・・・うっかり・・・」
失敗に気付いた時には数歩手前で止まっていた伊織からジト目で睨まれていた。彼女達が足を止めている理由は簡単だ。まだ、結界に通り道を作って貰っていないからである。
ややあって、式見が先に結界を通り抜ける。
「頑丈だな」
ボソッ、と呟かれた一言は間違い無く加佐見その人へ向けられていた。本当だよね、と伊織が容赦無く追随する。
「加佐見くんはアレかな、目に見えない装甲でも着てんのかな?結界は障子紙じゃないんだけど」
「こ、壊れてませんかね、結界・・・!」
す、と伊織が目に見えない壁に手を沿える。彼女は術師型なのでそういった類の確認、及び修正は得意なのだ。
「壊れてないね。加佐見くんが通り抜けようとしている最中に開通したのかな。・・・まあ、どうでもいいか。それにしても、本当に範囲が広いね。向こうの方まで続いてるっぽい」
「どのくらい」
「え?そうだなあ、学校の運動場2つ分くらいかな」
「広いな・・・」
ややうんざりしたように式見が嘆息する。
「作戦を立てよっか。ノープランじゃ疲れるだけだろうし、何かこう・・・楽出来る感じで」
「楽、ですか・・・。すいません、僕、あまり体力に自信無くて」
「大丈夫だよ、加佐見くん。私も体力には自信無いから。ま、符もたくさんあるしバテるって事は無さそうだけどね」
「あ、追加の情報来ましたよ、結界師の方々から・・・」
思い出したようにメールを受信する。ちら、と目を通すと式見が横から覗き込んで来た。彼、時々人との距離感が狂っているのは一体何なのだろう。