3話 学者達の乗る船

02.同僚の考察


 そうこうしているうちに、つい最近見た平地に到着。訓練とか良いから、小学生の時にみんなでやっていたドッジボールをやりたい気分になる。まあ、2人しかいないのでボールのぶつけ合いという暴力じみた展開になりかねないが。
 ボンヤリとどうでもいい事を思考していると、さあ、と何故か本人よりやる気のあるクライドが笑みさえ浮かべて手を打った。全く裏表の無さそうな爽やかな笑みだ。

「ともかく、1つずつ能力を使ってみましょう。ディグレさんと戦っている時にも見せて貰いましたが、かなり優秀な力です。手足のように扱えるようになったら、きっと今よりずっと強くなれますよ!」
「はあ……。まあ、私は暴力系はあんまり好きじゃないから、必要以上に上達する事は無さそうな気がするけれどな……」

 好きこそ物の上手なれ。裏を返せば興味の無い事、嫌いな事というのはなかなか上手にならないものだ。しかし、命が懸かっているので今回はその限りではないのかもしれない。
 否、そもそも現状の自分という存在は命という不明確なものに支えられているのだろうか。メテスィープスの言い方、テクスチャという切り絵みたいな状態からして『桜木伊緒』という存在の記憶の残滓が自分なのではないだろうか。
 第一に――

「イオさん? どうかしましたか?」
「ごめん、ちょっと哲学的な気分になってた」
「急に!?」

 ごほん、とクライドが仕切り直すように咳払いする。

「一先ず、今把握している能力を俺に開示して貰っても良いですか? あ、勿論、特殊能力だなんて完全にプライバシーの領域なのでお話したくなければ無理には聞きませんよ」
「プライバシーなの。これって」
「そうですね。とある生物学者の説によると、特殊技能だの特殊能力だのを持っている種族とは関係の無い力の持ち主というのが、混血に限定されているそうです」
「ええ?」
「つまり、混血コンプレックス持ちの方にしてみれば完全にプライバシーの話になりますね。知られたくないのに聞かれた、という事にもなります」
「へえ。じゃあ私は一応混血の可能性があるって事?」
「うーん、どうなんでしょう。世の中、何でも起こりますからね。別の要因かもしれませんし、何とも……」
「考えても仕方ないか。クライドもその変な力みたいなのを持っているの?」
「はい。……ですが、現状あまり俺の能力は使えないので話す時が来たらお話しますね。まあ、イオさんと比べれば大した力でもありませんが」

 あまり深く考えず、代わりに自分の持つ能力について思いを馳せる。戦闘時はすっかり忘れていたが、まるで生まれた時からそうであるかのように、それぞれの能力使用については完璧なまでに完璧に分かる。細部に関しては試してみないと分からない事もあるだろうが、発動だけであれば難なくこなせるだろう。
 クライドの言う通り、これが混血であるが故に生まれ持った力であるのなら。やはり呼吸をする、瞬きをする、走る、歩くのような使い方の説明出来ない当然のように当然に行使できる行動と同じ意味合いを持つのだろう。

 ともかく、同僚であるクライドに持ち合わせた能力の開示をする。特に隠すようなものでもないし、かつての桜木伊緒は持ち合わせていない力なのでどことなく他人事。まるで夢見心地で、現実味が無いのでそれを説明するのに抵抗はなかった。例えるのならば、昨日見たドラマのあらすじを語るようなものだ。

「えぇっと、それで私の特殊能力? の話だけれど、一度口頭で説明していい?」
「そうですね。一度どんなものか聞いておいた方が分かりやすいでしょうし」
「よしきた。まず1つ目が、ディグレ戦でも使った何か念力的なもの。物を浮かせたり、自由に動かしたり出来るよ」
「あの衝撃波みたいなやつですね」
「そうそう。で、2つ目が何とテレポート! これは使った事が無いからどこまで行けるか分からないけど、あんまり遠くには行けなさそう」
「不意討ちに使えそうですね」
「それで最後。何かあれ、防御? ドームみたいな壁が周囲にあるような」
「防御壁のようなものですか? 何だか色々と持ってますね、イオさん」
「これがあったから、最初にクライドと模擬戦をした時に怪我しなかったんだと思う」
「え? 割と華麗に着地していましたよ。相当戦い慣れした人間か、身体能力が最初から高い種族くらいには華麗な着地でした」

 ――いや私の運動神経は控え目に言ってドブ。
 とは流石に説明のしようが無かったので笑って誤魔化す。その間にもクライドは今知った情報を脳内で整理しているようだった。

「一先ず、最初の念動力みたいなものは置いておきましょう。命中精度なんかを訓練したい気持ちはありますが、他2つが曖昧過ぎていざとなった時にイオさんの頭から飛びそうですし」
「おっしゃる通り……」
「瞬間移動的な能力があると言っていましたね。飛距離が全く無くとも、使用出来るのであれば不意討ちにかなり使えます。とは言っても、イオさん自身が接近戦を苦手としているようなので、あまり噛み合っていない気が……あ、でも防壁あるんですっけ」
「アンバランスだなあって、自分でも思うよ」
「……どのみち、防壁もどのくらい頼りになるか分かりません。色々と試して、イオさんが尤も力を発揮出来る距離感を探していきましょう」
「ご、ごめんね。色々と……」
「いえ。俺がいきなり仕事に連れ出して大丈夫だと思い込んだのがそもそもの間違いでした。戦闘なんてした事も無いって、最初に言っていたのに。やはり俺もロボですね、あらゆる生物は最初から戦えると思っている……」

 クライドは真剣にイオの戦い方について考えを巡らせているようだ。あまりにも真剣なので、逆に申し訳無くなってきた。