04.第一島民との出会い
ただ、とクライドが胡乱げに話を繋げる。
「やはり、封印処置という方法を快く思わない方もいます」
「というと?」
「封印する力があるのなら、始末しておけば良かったのにと考える派ですね。封印なんてその場凌ぎで、また誰かが封印を解いたらどうするんだという意見を持つ方もいますね」
「成る程ね……。私もその方が安全だと思うけれど、倒せなかったのには理由とかあるの?」
「ええ。実はクリタ島には2体の聖異物がいます」
「2体!? ……それって勿論、多いんだよね?」
「はい。この小さな島に2体もの聖異物が存在している、というのはかなり多い方かと。1体を討伐するのであれば、当時の島民も恐らく聖異物を抹殺した事でしょう。しかし、2体いた。そして、その2体は同じ道具で封じられています」
「つまり、倒そうと思ったら2体同時解放する必要があるって事ね」
「そうなりますね。それに、当時は戦力的にも厳しい状態だったと聞きます」
「準備が整ったら、討伐するのかな?」
「どうでしょうね。ロボ族とガト族の族長同士が話し合って決めるんじゃないでしょうか……」
根が深い問題らしい。それと比例するかのように、クライドの眉間の皺も深くなっている。
「それで、私達は基本的に何をどう調査すればいいの? この祠には触らない方が良いんだよね?」
「そうですね。俺達が調べるのは、この近辺に何者かが踏み入った形跡が無いかどうかです。聖異物をどうこうするつもりなら、必ずこの場所へ来なきゃいけませんからね」
踏み入った形跡も何も、ほぼ森と言っていい大自然が広がるだけで都会っ子の自分に何かが見つけられるとは到底思えない。それとも、クライドはロボ族の血が混ざっていると言っていたし、匂いなんかで何かが分かるのだろうか。
そもそも、とクライドが注連縄付近を闊歩しながら説明を重ねる。
「めぼしい団体が2つあるんです」
「2つ?」
「はい。俺とクロノス様が当たりを付けている――要は犯人候補って奴ですね。それが2つあります」
「ふうん、どんな?」
「会ってから随時説明します。多分、口で説明してもピンとこないでしょうから」
「それもそうだね。多分分からない気がする」
「それじゃ、俺は色々と調べます。イオさんは人が来たら、俺に教えて下さい。あまり祠にベタベタ触るのも良くないので」
「了解です」
言うが早いか、極力祠には近付かないように地面の様子などを観察し始めるクライド。その顔は真剣そのものだ。あまり声を掛けて良い雰囲気ではなかったが、堪らずイオはお喋りを始めた。
「ねえ、クライド。それどうやって調べてるの? やっぱり鼻とか良いのかな?」
「そうですね。人間のそれよりはずっと良いかと。ただ、他種族の鼻がどのくらい利くのか分からないので比べようが無いですけどね」
それもそうだ。質問をミスった。
暇なので更に何か聞こうとしたところで、不意に彼がこちらを向いた。そして驚いたように目を見開く。
一体何だと言うのか。彼は私の背後に視線を送っているようだ、そう気づき振り返ろうとする一瞬早く。
トントン、と肩を叩かれた。もしもし、というリズムと同じだ。
「ひっ!?」
人なんて居ないだろうと思い込んでいたばかりに、飛び上がって驚き、今度こそ振り返る。
「いや誰!?」
「そりゃこっちの台詞なんだよな」
思わず叫ぶと、イオの肩を叩いた本人であろう成人男性は肩を竦めた。決して細身では無い屈強な体付き、ニヤニヤと人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべているも、その目はちっとも笑っていない。
一見すると普通の成人男性だが、吹き抜けた風により、男の髪がふわりと浮いた事でようやく対峙している相手が人間では無い事を悟る。キンキンの金髪の隙間から確かに見えたのは、熊や虎に近い丸みを帯びた両耳だった。よくよく見ると琥珀色の目も縦長の瞳をしており、人間のそれではない。
彼こそがクライドの話していたロボ族、またはガト族の住人なのだろうか。そう思い至った瞬間、背筋に緊張が奔る。
そんなイオに対し、話をする相手と見なさなかったらしい男はゆっくりと姿勢を直したクライドへ警戒の眼差しを向けた。
「で、お前等は誰だ? ここで何をしてる」
底冷えするような重低音にイオは震え上がったが、クライドは違った。目を眇め、男を睨み返す。
「貴方こそ。ここで一体何をしているんです?」
「質問を質問で返すな、って親から教えて貰わなかったのかよ。クソガキ」
――剣呑な雰囲気!
イオは心中で絶叫した。とても割って入る勇気は無い。