2話 ドキドキ!第一島民との出会い

02.認識変異魔法


 気を取り直して、と不安の種がそう言って仕切り直すように手を打つ。いや、取り直すも何も途中離脱など考えてみれば事故以外の何物でも無いのだが。

「ともあれ、島の詳細については説明が出来ますのでお任せ下さい。聖異物の封印場所もバッチリ覚えていますからね」
「あ、クリタ島そのものに聖異物が封印されているって話だったっけ?」
「はい。それを解こうとしている輩がいるので、阻止するというお仕事です」

 そこでイオは首を傾げる。頭が悪いせいだろうか、いまいち分からない事がある。

「うん? 結局、時間旅行者を追うのと聖異物の解放阻止はどういう関係性があるんだっけ?」
「不正な時間旅行者が聖異物の封印を解こうとしているから、聖異物に関して調査をしていれば必然的にそっちにも関われるって事よ」

 クロノスがアホな自分にも分かりやすく説明をしてくれた。漠然と罪人の捕縛、などと言うのでは無く一応は段階を踏んで作戦を立てているようだ。

「あれ? よく封印を解こうとしているだなんて分かりましたね。もう、その時間旅行者って方々の顔は割れているんじゃないですか?」
「それが分からないのよ。被害者から、そういう事が未来的に起きたって事を聞いただけで。その被害者も島にいる怪しげな連中の誰が時間旅行者なのかまでは分からないという事。完全に魔女狩り状態なのよね」
「本当ですね……」

 島にいる全ての存在が容疑者というか、不正な人物である可能性があるのか。如何ともしがたい状況らしい。尤も、イオ自身はクリタ島など行った事も無いので感覚としては他人事に近いが。

「あと、俺の格好についてですが」

 まだ注意事項があるのか。しかし、その言葉には納得せざるを得ない。彼は確か、今から行く場所が故郷だと言っていた。そのままの格好ではすぐに顔が割れて、「何やってんのお前?」みたいな状態になりかねない。
 そんな問題を解消する便利な現象が、魔法である。

「見ての通り、変装なんて基本的に無意味ですからね。俺にはクロノス様から、認識変異の魔法を掛けて貰います」
「認識変異? 魔法?」
「はい。俺を『クライド』だと知らない相手――要は認識変異魔法を掛けられていると知らない相手の、認識を書き換える魔法です。なので、俺はクライドですが名前や顔立ち、背格好なんかは違う人物に見えています」
「私がうっかり君の名前を呼んでも問題無いよ、って事?」
「はい。なので、普段通り接して頂いて結構です。とはいえ、あまりにもまじまじと観察されたり認識変異魔法が使われている事に気付かれれば効果が消えてしまいますが」

 そう言いながら、クライドはイオの着ている怪しいローブに酷似したローブを羽織った。成る程、あまりにもじっくり観察されないよう、もしくはされても困らないように顔などを隠してしまおうという魂胆か。だが――

「ず、随分と怪しい面子になっちゃったけど、島に住んでいる人達から通報されたりしない? 職質とかで済めば御の字レベルだよこれ」

 真っ黒てるてる坊主が2人。もし自分が通行人で、彼等を見つけた場合はすみやかに警察署へ直行するだろう。それくらいには怪しい、端的に言って不審者のような出で立ちだ。
 しかし、クライドは爽やかな笑みを浮かべている。

「はは、確かにそうですね」
「いや笑い事じゃないんだけど……」

 それじゃあ2人とも、と何事も無かったかのようにクロノスが明るく切り出す。一連の流れちゃんと見てた? 何も大丈夫じゃないぞこの状態。

「今からクリタ島の、封印のある祠近くに転送するわ。何か危険な事が起こった時には、私の力で庭園に強制送還するかもしれないから、その時にはよろしくね」
「安全装置付きって事ですね」
「いや、イオさん。あまり期待しない方が良いですよ。神族の感覚は、俺達人間のそれとは違いますから。自分の身は自分で守りましょう」

 クライドが迫真の顔でそう言う。イオもまた、その真剣な顔と言葉に思わず首を縦に振った。何かあったのだろうか、彼は。

「じゃあ、よろしくね。レッツゴー!」

 淡い光が広がり、それが徐々に視界を白く埋め尽くして行く。網膜を焼くような強烈な光になったところで、堪らず目を閉じた。