1話 転生キャンセル

10.人間関係の地雷


「あの、やっぱりそのテクスチャ、神子という理由で貼られたものじゃないんじゃないですか?」
「凄く拘るじゃん……。テクスチャのルーツに何か問題でもあるの?」
「いえ、純粋に把握していない事があるのが好きではないだけで、深い理由はありませんけど」

 教えろ、と言わんばかりのクライドの態度に眉根を寄せる。何だってそんなにどうでもいい事に拘るのか。こっちも説明が出来ない状況と理解度だし、それを彼に話したところで何かが変わるとも思えない。
 端的に言って、あまり触られたくない話題に土足で踏み込まれている状態と言える。単純に不快なので察して欲しい。
 しかし、どうやらこちらの気持ちは通じないようだ。仕方無い、ここはハッキリと詮索しないで欲しいと伝えなければ。ノーと言える人間になってみせる。

「ちょっとしつこいよ。私だってよく分からないんだから、説明なんて出来る訳ないじゃん」
「それは、そうなんですけど……」
「誰だって人には言えない事の一つや二つ、あるでしょ。私にも分からない事を、私に聞かれたって困るよ」
「……そう、ですね。すいません、不快な気持ちにさせてしまったようで」
「ああ別に、しつこくしなければ気にしないから、うん」

 一瞬の静寂。それを打ち破ったのはクライドの方だった。

「貴方の気持ちを考えず、詮索をした事は謝ります。昔、仲間に痛い目を見せられまして。少し神経質になっていたみたいです」

 ――何か急に自分語り始まったぞ……!!
 適当に受け流してはいけない空気を察知。イオはすぐさま高校生活で培われた共感性を示す。

「何か辛い事があったんだね。私はそんなに気にしてないから、君もあまり気にしないで。たまに言い方がキツくなっちゃう時があるけど、それだけだからさ」
「貴方は優しい方ですね。でも俺は――やっぱり裏切り行為が許せる質ではありません。貴方に限って、無いとは思いますが……。これからもよろしくお願いしますよ、イオさん」
「え、あ、うん」

 目が本気だ。かち合った双眸が如実に「お前は不審な行動を絶対にするなよ」、と物語っている。あまりにも強すぎる圧に、思わず目を逸らした。何と言うか、現代日本には無い殺気というか、気配を纏っていると言える。

 どうしたものか思案していると、この場における救世主が現れた。

「クライド、急に私の事を呼び出して何なのかしら?」
「すいません、クロノス様。俺の不手際で――」

 現れた女神・クロノスにクライドが事の経緯を説明する。全てを聞き終えた女神は案の定、その顔を怒りに歪めた。面倒事を増やしやがってと言わんばかりの顔だ。

「ちょっと、何をやっているのよ! 私だってテクスチャ貼るの、得意じゃないのよ。取り敢えず見た目だけは取り繕ってあげるから、一時はそれで我慢して」
「治せるんですか!?」
「イオ、それは治すというより修復っていう意味合いの方が強いわね。一応、テクスチャを貼るのが上手い子を呼んでおくから、それまでは私お手製ので耐えて」
「ありがとうございます」
「言っておくけれど、強い衝撃を受けたらまた腕が無くなると思って頂戴。それと、明日から仕事に出て貰うけれど、私のテクスチャで行って貰う事になるから今日みたいな無茶はしない事! いいわね?」
「ええ、俺が責任を以てイオさんを見ておきます」

 クライドが深々と頭を下げる。何て礼儀正しい好青年なのだろうか。人の腕は飛ばしたけれど。
 と、不意にクロノスがこちらを見やる。

「そうだわ、イオ。貴方の自室を用意したの。場所を案内するから付いて来なさい」
「すいません、膝が粉砕していてですね……」
「膝も!? はしゃぎ過ぎじゃない? もう、じゃあ先にテクスチャを貼り直しましょうか……」

 溜息を吐いたクロノスはクライドが持っていたイオの腕の破片を片手で塵に変えた。どうやらそれは要らないらしい。

 その後、無事に腕と膝を修復して貰い宛がって貰った自室へ。明日から本格的に動いて貰うと釘を刺されて、長い1日が終了した。