07.女神からの指南
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空き地のような場所に到着した。この空中庭園と呼ばれる場所の構造は一体どうなっているのだろうか。謎は深まるばかりである。
その空き地には無骨な倉庫のようなものが置いてあった。そして、周囲に草花の姿は無く、ただ芝生だけが広がっている。ここでなら、簡単なスポーツでも出来てしまいそうな雰囲気だ。
イオは周囲を見回しながら、最後にはここへ自分を連れて来たクライドを見やる。彼はスッと倉庫を指さした。
「あの中に訓練用の武器が入っています。好きなのを選んで、使ってみて下さい」
「私が好きなのは平和なんだよなあ」
「そう言わず、さあさあ」
全く取り合って貰えないので、仕方無くクライドと共に倉庫を覗き込む。もっと鉄錆び臭い場所を想像していたが、中は綺麗に整頓されていた。武器庫と言うより武器展示室のようだ。どこもかしこも、まるで人の使った形跡が無いように綺麗に保たれているのだから驚きである。
ともあれ、流石に戦闘と聞いて素手で殴り掛かってもどうしようもない。イオは見た目が気に入っただけの双剣を手に取った。左右対称なのがどことなく心の良く分からない部分を擽る。
そして手に取ってみたから分かったが、これは本物の刃物ではないようだ。よく時代劇などに用いられる模造刀のような、限りなく見た目は本物に近いニセモノ。
「決まりましたか?」
「あ、うーん。見た目はこれが好きかな」
クライドをチラ、と見やる。彼は剣と盾を持っていた。見た目と相俟って勇者か何かに見える。彼、職業を間違ってはいないだろうか。
空き地のど真ん中に移動する。まさか、この歳になってチャンバラごっこをやらされるとは思わなかった。
手に持った模擬武器のグリップらしきところを取り敢えず握り締め、時代劇やアニメで見たように手に持ってみる。恐ろしく軽い。ぶんぶん振り回せそうだ。この重さは――そう、高校で体育の授業があった時、テニスの授業で振ったラケットくらいの重さだ。
突っ立ったままどうすればいいのか分からないのを、遠慮していると受け取ったらしいクライドが不意に声を掛けて来る。
「さあ、イオさん。どこからでも掛かってきて下さい!」
「そうは言われても……。何をすれば――あれ?」
視界から色が消える。モノクロの世界が唐突に広がったのを見て、イオの思考と行動は完全に停止した。何が起きているのだろうか。頼みの綱のクライドもまた、それっぽく武器を構えた状態で時間が止まったかのように制止している。
混乱を極めていると、自分とクライドの間にあった空間がぐにゃりと歪んだ。
「え、え? えっ……」
どうしようも出来ず、呆然と佇んでいると急にその歪みから知った顔が現れる。
「面倒な事になっているみたいね、イオ」
「め、女神さま!?」
最初に出会った女神・メテスィープスが何も無い空間から現れた。腐っても神様と言う事か、出現方法がホラーじみ過ぎている。
しかし、彼女は首を横に振った。
「私が貴方の前に現れた訳ではなく、貴方の意識に直接アクセスしているだけ。イオ、貴方と対峙している彼は貴方が急に立ち止まって考え込んでいるように見えている」
「完全に変な人じゃないですか! 何ですか急に!!」
「事態は理解している。模擬戦なんかして、すぐに貴方を返却されでもしたら面倒だから、幾つか教えに来たの」
「チュートリアル始まった!」
「そもそもから持たせて転生させる予定だった力だから、使えて当然。3つあるけれど、今のテクスチャの状態では十分に力を発揮出来ないだろうから、使用のし過ぎには注意しなさい」
「これどうにかならないんですかね……」
そんなイオの嘆きは完全に無視し、メテスィープスが優雅にこちらへ向かって歩いて来る。隣に並んだ彼女は淡々と事の概要を説明した。
「いい? 貴方には物を自在に動かせる、グラビティの能力がある。攻撃手段として使うと良いわ」
そう言って、女神の白い手が肩に触れた瞬間。その謎めいた力、『グラビティ』の使用方法が漠然と理解出来る。例えるならばそう、人間がいつの間にか二本足で歩行出来ているような、或いは誰に教えられた訳でも無いのに呼吸が出来るような、そういった感覚に似ているだろう。
恐らくは息をするように、この力を行使する事が可能だと、不思議とそう思える。何故なら腕を伸ばして物をつかみ取る事と同じ行為だからだ。
「そして2つ目、貴方を護る防壁が常に展開されている。他人の悪意的な攻撃行為に反応するけれど、テクスチャの状態が悪いからあまりアテにはしない方が良い」
「オブラート的なアレですか?」
「そう。そのくらいの強度。不意討ちには対応出来ても、二撃目は受けられないと思って」
――ここまでで双剣を選んだ意味が全く見いだせない、便利能力ばかりが付加されているが、もしかしなくても武器要らなかった?
武器の必要性にまで思考が飛んでいるも、スッと女神の言葉が耳に入ってくる。
「最後、3つ目。貴方は行った事がある場所、存在が確認出来ている場所、知人の居る場所に瞬間的な移動が可能」
「テレポートっていうやつですか? わあ、ロマンがあるなあ」
「――けれど、さっきから言っている通り、テクスチャの状態が悪いから精々不意討ちくらいにしか使えない距離。長距離移動は不可能」
「割と意味ない!」