1話 転生キャンセル

06.同僚からの質問・下


 ごほん、とクライドが仕切り直すかのように咳払いする。

「質問を変えます。イオさんは、どういった種族なんですか? 見れば分かるだろ、と思うかもしれませんが貴方のテクスチャの状態では見た目で判断が出来ません。今後の為、無理にとは言わないので俺にも教えて貰って良いですか?」

 ――タイムリーな話題来た!!
 種族とはまず何なのか。それすら不明だが、取り敢えず両親が誰なのかも分からないので種族もへったくれもない。そうか、人類ですらない可能性もあるのかこの世界。
 種族という言葉で人間以外の何かが居る事を間接的に悟ったイオは、顔を引き攣らせながら首を横に振った。

「ご、ごめん。大変心苦しいんだけど、自分の両親が誰になるのかも分からないから、ちょっと分かんない。あとそのー……、そもそも種族とは?」
「あ、そういう感じなんですね。重ね重ね失礼な事を聞いてしまってすいません。種族という概念も無いのか……。そうですよね、神子ですもんね」

 自分自身が神子などという神聖そうな存在とは到底思えないが、便利なレッテルだな、神子。

「ちなみに俺は、ロボ族という種族で人間との混血児です」
「ロボ族?」
「ええ。こう見えて、かなり力が強いんですよ。混血なので、それ以外の能力も持っていますが、切り札的なあれなのでその内お披露目しますね」
「そうなんだ。力が強いって、例えばどのくらい?」
「イオさんくらいの方でしたら、3人くらいはいっぺんに抱えられますね」
「えっ、それは凄いなあ! 私がぶっ倒れたら運んでよろしく!」
「はい! 任せて下さい! ちなみに故郷はクリタ島という島ですね。伝統を重んじる島で――悪く言えば、文明が止まっている島とも言えます」

 クライドにはちゃんと故郷や両親と言った、生き物が必ずしも持つ系譜的なものを持っているらしい。仕方無いので、イオもまた考えたって分からない事を考え、そして曖昧な言葉を口にする。

「じゃあ、私は人間かなあ。多分、君みたいに力持ちじゃないだろうし」
「テクスチャ、というものを貼っているからではないですか? 決めつけは良くないかと」
「そうだよねえ」

 ――いやそもそも、転生前は確実に人間だから生まれられていない時点で人間のままなのでは?
 ふわっとした哲学に目覚めそうな脳を無理矢理現実へ引き戻す。代わりに、今クライドから得た情報を更に深く掘り下げてみる事にした。

「さっき言ってた、クリタ島? っていう所はロボ族が住んでるの?」
「取り仕切っているのはロボとガトですね。他にも動物を模した種が集落を作って集団で生活している場所です」
「そうなんだ。何か仲悪そうなイメージがあるなあ」
「それに関しては数年前に和解しましたよ。そして、クリタ島は俺達の職場でもあります」
「そうなんだ」

 ここでクライドは少しだけ申し訳無さそうな顔をした。

「さっきも言った通り、クリタ島は俺の故郷なんです。そういう訳で、俺は表立って動けない場所が幾つかあります。その時は貴方に任せきりになってしまうかもしれません」
「えっ、普通に困る」
「はい、そう仰ると思っていました。と言うことで、今から俺と手合わせしませんか?」
「え? はい、手」

 手を合わせると言い出したので、右の手の平を向ける。クライドはやんわりと笑みを浮かべた。幼い子供の奇行を微笑ましい目で見る保護者のようだ。

「そういう意味ではなく、模擬戦をしませんか? 貴方がどのくらい動けるのか――どの程度、俺の仕事を任せる事が出来るのか知る必要があります」
「でも……」
「貴方に大怪我をさせない為にも、貴方を預かる俺にイオさんの実力を見せてはいただけませんか?」

 ――くそう、言い方が上手い!
 同僚であると同時、彼は仕事の勝手が分かる先輩でもある。そう言われてしまえば、断るという選択肢は絶たれたも同然だった。
 まさかとは思うが、動けなさ過ぎて即日解雇となりメテスィープスにも見捨てられ、路頭を彷徨う事になったりはしないだろうか。不安が絶えない。
 仕方が無いので、クライドの失望具合を最小限に留める為、しつこく念押しもとい釘を刺す。

「先に言っておくけれど、私、本当に動けないと思うよ? 大丈夫? 逆に君が私を大怪我させる事にならない?」
「ええ! 加減しますからご安心下さい! では、行きましょう。ここでは庭を荒らしてしまいかねませんからね」

 ――手加減とかそういう事じゃないんだよ!!
 その遠慮は草花ではなく、こちらに向けて欲しい。そう思うものの、その願いは当然ながら彼には全く伝わらなかった。