3.





 話は終わったようだな、とキリトが一歩前へ出る。その手にはどこから取りだしたのか、ファゴットが握られていた。《ローレライ》としての戦闘準備は整っている、という合図である。
 先程と違う事はただ一つ。兵士がいなくなって、《ローレライ》が増えた事だ。もれなく全員が能力者。実に華々しいメンバーであるが、場に満ちる空気は刺々しいものである。

「悪いね。誰も妥協しようとしないのが、この状況の真理だろうから。ああ、自分は譲ってもいいっていう人がいたら遠慮無く言ってくれて構わないよ」

 そう言って淡嶋由が笑う。勿論、それに答える声はない。
 一番に響いたのはディラスが持つヴァイオリンの音だった。ラグが持っているのはトランペットなのだが、まだ吹く様子は無い。

「意外とせっかちなんだな、ディラス」
「くだらない事に時間を費やしている暇は無い。僕はお前達と何ら関係が無いからな」
「そうだろう」

 言葉を切り、キリトが持っていたファゴットの音を響かせる。鼓膜を振るわすような重低音の後、先発として放っていたディラスの弦が掻き消えた。光を受けてキラキラと細く輝いていたそれらは、綺麗に消滅したのだ。
 見ていたラグが盛大に溜息を吐く。

「キリトは《ローレライ》の能力を打ち消す能力を持ってる」
「早く言え。無駄な体力を使った」
「それで、どうするの?ラグ」
「俺に振るなよ・・・真白の《災厄》は駄目なのか?」

 これが果たして《ローレライ》の力なのかは甚だ疑問である。何故なら、真白の災厄体質はこの地へ来る前からその身に備わっていたのだから。

「・・・でも、キリトは打ち消す事しか出来ない。私達を倒す事は――」
「アホか」

 呆れたようなラグの声と同時、背中を押される。何するんだ、と抗議しようとしたところで顔の真横を刃物のような物が通り過ぎて行った。
 由の能力かとも思ったが、何の事は無い。ナイフを何の遠慮も無く投げつけて来ただけだった。

「不利ではない。が、面倒な状況ではあるな」
「冷静に分析してる場合じゃねぇよ。言っとくが、俺もギルバートの能力は知らねぇからな」
「使えない奴だ」

 真白はかつてのリーダーを見やる。楽器を持っているようには見えないから、彼もまた歌う《ローレライ》なのかもしれない。
 何にせよ――

「注意した方が良いわ」
「お前には言われたかねぇよ」

 頭をパシリ、と叩かれた。