2.





 このまま話は平行線をたどる――と思われた矢先、黙っていろと一喝されてその通りに黙っていたレクターが口を挟んだ。執事らしい行動を取るが、その実はやはり執事ではないらしい。従順さに随分と欠けているのだ。

「美緒の言っている事が本当ならば、それに従った方が良い。仇討ちするにしても、違う相手を討てば意味は無い」
「そうだけど・・・」
「同じ失敗を繰り返さないよう、信憑性のある証拠を提示したらどうだ」

 言ったレクターの視線がこちらを向く。最後の言葉は、どうやら美緒本人に対して放ったものらしい。
 ――が、そうだと証明出来る証拠があれば最初からそれを見せつけている。あるのは、ラグがディラスの不審な行動を見ていないだけ、という否定的な証言だけだ。

「証拠は、無いんだよね・・・。まあ、クレアが真白の邪魔さえしてくれなければ、もう何でもいい気がしてきた・・・」
「何それ。喧嘩売ってるの?」
「だって、クレアの中で仇討ちの相手は《ジェスター》でしかないんでしょう?なら、もうあたしが何を言っても無駄な気がするかな」
「そもそも、ミオはあたしをどうしたいの?」
「え?」
「何を思って、今更訂正なんてしてきたの?そのまま放置しておく事も出来たはずだよ。どのみち、一時は再戦なんて無理だろうからね」

 だいだい、これはラグの指示だ。出来れば《宴》を味方に付けたい、という要望の元、美緒だけがここへ戻って来たのだから。で、クレアにどうしたいかと問われれば――

「正直、協力して欲しいんだよね。そっちも仇討ち出来るし、デメリットだけじゃないでしょ、って言いたかったんだと思う」
「・・・都合の良い事だ」
「知ってるよ」

 レクターの呆れたような溜息。そう。白状してしまえば、計らずともまた、彼女を利用しようとしていた事になる。
 ――ああ、失敗したな。
 心中で自分に対して舌打ちする。今の発言は非常によろしくなかった。

「・・・いいよ、行ってあげるわ」
「え?」
「正気か、クレア?」

 うん、と彼女は深く頷いた。意図がまったく読めない。
 美緒の心中を察したのか、クレアは勘違いしないで欲しいけれど、とそっぽを向いた。

「仇討ちとかじゃなくて、ミオが困ってるみたいだから、協力するんだよ」
「・・・あ、ああ・・・そういう熱血キャラだったんだ、クレア」
「うわ、台無し・・・」